パワーハラスメントを起こさせない職場づくり

人事労務


パワーハラスメントを起こさせない職場づくり

 

昨年からメディアでたびたび取り上げられる「パワーハラスメント」問題。昨年は国会議員によるパワーハラスメントがメディアで大きく取り上げられましたが、今年はスポーツ界での問題が次々と報道されています。

さて、身近なところで、皆さまの職場ではいかがでしょうか。

最近では、職場内でのパワーハラスメントに関するお悩みの声が数多く聞こえてきます。

今回はこのパワーハラスメント問題を取り上げ、パワーハラスメントを起こさせない職場づくりについて考えていきたいと思います。

 

パワーハラスメントとは?

 

改めて、パワーハラスメントの定義を確認しましょう。

パワーハラスメントとは、「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」と、定義づけられています。

ここでのポイントは2つです。

職場の優位性

パワーハラスメント(以下、パワハラと記載)と聞くと、上司から部下への行為を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、それに限らず、先輩・後輩間や、同僚間、部下から上司に対して行われるものもあります。さらには、パート社員から正社員への行為もパワハラに当たることがあります。例えば、「初めて現場に異動してきた正社員が、分からないことをパート社員に聞いたところ、『上司のあなたが知らないことは、私達はわからない』と言われ続け、ストレスから、休職に追い込まれた。」というようなことがありました。職場での“経験”も優位性の1つと言えるのです。

業務の適正な範囲

管理職の役割として、管理職は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、管理職としての役割を遂行することが求められます。よって、業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワハラにはあたりません。

ただ、この「業務の適正な範囲」を超えているのかいないのかは判断が難しいため、管理職の方からは、パワハラを恐れて部下の指導に対して及び腰になってしまう、という声も多く聞こえてきているのが実態です。

 

パワハラの行為類型

 

厚生労働省では、前述した職場のパワハラについて、裁判例等に基づき、以下の6類型を典型例として整理しています。

(ただし、これらは職場のパワハラに当たりうる行為のすべてについて、網羅するものではないことに留意する必要があります。)

 

①  身体的な攻撃(暴行・傷害)

②  精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

③  人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

④  過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)

⑤  過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと )

⑥     個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 

①の身体的な攻撃などは分かりやすいですが、②の精神的な攻撃については、指導かパワハラか、判断が難しい面があります。

例えば、以下のケースはパワハラにあたるでしょうか?

取引先のアポイント時間を間違えて部下が遅刻したときに、同行した上司が、「何やってんだ!」と叱った。

これだけでは、パワハラとは言えません。

しかし、

さらに「だからおまえとは仕事をしたくないんだ!」「噂どおり役立たずだな!」「仕事しなくていいから帰って寝てろ!」などと言い、それが日常的に繰り返される。

このようになるとパワハラ行為となり得ます。

ただ、前述の例における「なにやってんだ!」も好ましい叱責とは言えず、これがあまりに感情的になってしまうとパワハラになりかねません。

叱責する時は、相手の“人間性”ではなく、“行動”に対して行うべきです。

後述の例については、「噂どおり役立たずだな!」と、相手の人間性を否定していることや、暴言が日常的に繰り返されていることが問題です。

また、⑥の個の侵害についても、例えば、恋人の有無について聞き、過度に結婚を推奨するなど、仮に悪気なく、部下とコミュニケーションを取る目的で必要以上に個人的なことに立ち入ったとしても、それが結果としてパワハラ行為となってしまう可能性がありますので注意が必要です。

 

パワハラ行為者の責任

 

では、パワハラの行為者になった場合には、どんなことが起こるでしょうか。

まずは、民事上の責任です。民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償を請求される可能性があります。また、会社には民法415条の債務不履行責任(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償を請求される可能性があります。

また、刑事事件として訴えられる可能性もあります。例えば、パワハラ行為によって被害者が精神病を患った(医師の診断あり)場合、傷害罪に当たる可能性があります。その場合、15年以下の懲役、または50万円以下の罰金などが科せられる可能性があります。

また、裁判にならなかったとしても、職場内での信用や、地位を失墜、家庭への影響・崩壊なども考えられます。

このように、パワハラ行為は、パワハラを受けた人を深く傷つけるだけでなく、自身も民事上・刑事上の責任を問われ、社会的制裁を受けることになる、非常に重い行為なのです。

 

パワハラをめぐる動向

 

厚生労働省が2018年6月に公表した「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、のべ30万5000件に上る民事上の個別労働紛争に関する相談のうち、「いじめ・嫌がらせ」に関するものが全体の23.6%を占め、事由別の件数では6年連続でトップになっています。

では、この状況に対し、各企業は具体的にどのような取組みをしているのでしょうか。

ある調査によると、パワハラに限らず、ハラスメント防止に向けた取組みについては、最も多く実施されているのが「ハラスメントに関する相談窓口の設置」で、約8割の企業が実施しているとの結果が出ています。企業規模別にみてみると、1000人以上の企業の実施率は9割を超えているのに対し、300人未満では7割弱と、企業規模による開きがあるのが実態です。

また、ハラスメント防止規程を整備することによって、ハラスメントを許さない企業姿勢を見せるところも増えています。

 

職場のパワハラを予防するために

 

パワハラを予防するために大切なことはいくつかあります。

まずは、パワハラについての十分な理解が必要です。そもそもどんな行為がパワハラに当たるのか、理解をしていなければ、普段の行動に意識を働かせることができません。

理解を促進するためには、会社側が研修の機会を与えることなどが考えられます。例えば、管理職研修や階層別研修、新人研修などのコンテンツのひとつに入れ、定期的に考えるきっかけを作るのも良いでしょう。思いつきで実施してその1回で終わってしまった、というのは良くあることですが、それではあまり意味がありません。継続することが大切ですので、定期的な実施をお勧めします。また、講義中心の研修ですと受け身になりがちで、頭では分かっていても、本当の意味で腹落ちしていないと、理解が定着しません。これはパワハラ対策に限ったことではありませんが、いかに“自分事”にできるかが、重要なポイントとなります。手や口を動かし、普段の自分の言動を振り返るきっかけを与えるなどの体験型の研修が良いでしょう。

また、普段からコミュニケーションの機会を増やすことも大切です。基本的なことですが、一例として、挨拶を徹底したり、短時間でもよいので管理職と部下が定期的な面談の機会を持つことなどが挙げられます。普段から顔を合わせて頻繁に会話をしていれば、自身の態度によって相手の表情・態度に変化が生じていないか、また、隠れたパワハラがないか、周囲のメンバーの変化にも気が付きやすくなります。

そして、何よりも大切なのはお互いの人格や尊厳を尊重、理解することです。職場にお互いの人間性を認め合う土壌があれば、それぞれを尊重、理解する関係性はおのずと生まれてきます。そのような職場環境を作っていく上では経営者がしっかりとその姿勢を示すことが必要になります。

また、ソフト面だけではなく、職場のルールとしてパワハラ防止を明確に謳うことも必要です。

以下は、厚生労働省が公表している、パワハラ防止規程の例です。

(職場のパワーハラスメントの禁止)

第○○条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

これに加え、懲戒の事由に、上記「第○○条に違反した場合」というものを規定しています。

 

もし職場でパワハラが起きてしまったら

 

上記のような取組みを行い、パワハラが起こらない職場にすることが大切ですが、もしパワハラが起こってしまった場合にはどうしたらよいでしょうか。

まずは、パワハラが起こってしまった場合に備え、事前に相談窓口を設置・周知しておくことが必要です。

そして、パワハラ相談への対応の流れは以下のようなものが考えられます。

①相談者との面談

面談にあたっては、必ずプライバシーが確保できる場所を準備するとともに、秘密は絶対に守るということを伝えます。

②事実関係の確認

パワハラ行為者のヒアリング、第三者へのヒアリングを行います。

この場合、必ず相談者の了解をとってから行うようにします。

③パワハラ行為者、相談者への対応を検討

例として、配置転換や行為者による謝罪、職場環境回復、メンタルケアなどが挙げられます。

また、その行為が懲戒に値する場合には、減給や出勤停止、懲戒解雇などの懲戒処分を検討します。

④相談者、パワハラ行為者へのフォロー

⑤再発防止

ハラスメント問題に悩むことなく、管理職、一般社員、誰もがいきいきと働き、その持てる力を最大限発揮することが企業の成長力に繋がります。

ハラスメントが起こらない職場づくりにぜひ取組みましょう。

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