メンタルヘルスに関わる専門職や社内スタッフとの「連携」
会社におけるメンタルヘルスケースの中には、専門職や社内スタッフとの連携が必要な場合も考えられます。しかし、連携にあたって必要な役割を事前に理解しておかなければ、連携したことによって当事者本人に不利益を与えることにもなりかねません。連携する上で、あらかじめ押さえておきたいポイントを確認していきます。
目次
1 連携が考えられる「メンタルヘルスに関わる専門職・社内スタッフ」は?
まずはメンタルへルスに関して、どのような人たちと連携するかを確認していきます。
ケースによって、どこまで連携するかはさまざまですが、まずは連携することが考えられる専門職や社内スタッフなどを大まかに押さえておきます。
~連携が考えられる「メンタルヘルスに関わる専門職・社内スタッフ」~
【専門職】
●医療に関わる専門職:主治医、産業医、看護師 など
●精神保健に関わる専門職:保健師、精神保健福祉士 など
●心理に関わる専門職;カウンセラー、公認心理士、臨床心理士 など
●法律に関わる専門職・弁護士、社会保険労務士 など
【社内スタッフ】
上司・同僚、人事労務担当部署、衛生管理者、メンタルヘルスに関する有資格者 など
【その他】
家族、メンタルヘルスに関する公的機関・民間機関 など
2 連携する上で「最初におさえておくこと」
当事者本人(以下、本人)が、連携を望んでいるかを確認する必要があります。
そして、原則、専門家・スタッフ間で共有する情報について、本人の同意を得る必要があります。
連携する側は、問題解決する最善の方法として、情報共有をすることが必要だと判断しても、そもそも本人が望んでいるとも限りません。問題によっては、本人が「上司に知られたくない」「家族に知られたくない」「外部機関にまで知られたくない」などを望んでいるかもしれません。
本人の生命などに関わるため情報共有する必要があるなどの例外を除けば、本人の同意を得てから、専門職やスタッフ間で情報共有をするのが原則です。そのために、会社で「個人情報保護規程」「プライバシー保護規程」などのルールを事前に定めておくことも大切です。
3 連携する上で「事前に確認しておきたい‘’5つの役割‘’」
連携をするには、あらかじめ役割を明確にしておく必要があります。
ここでは「どのような役割が必要か?」という5つの内容から、『なぜ必要か?』そして『誰が担うべきか?』を掘り下げていきます。
~役割①~専門職などと連携する役割
・なぜ必要か?
最初に、そもそもなぜ連携が必要なのかを、「主治医」と「産業医」の関係を例に考えてみます。
まず「主治医」は、当事者本人の症状・疾患などに関しては把握していますが、職場環境を把握しているわけではありません。
一方で「産業医」は、職場環境などは把握しているかもしれませんが、本人の症状などを詳細に把握しているとは限りません。また、その産業医がメンタルヘルスを専門にしているとは限りません。
そのため「主治医」と「産業医」が持っている情報が一致するわけではありません。
互いが持っている情報を効率的に共有することが必要であり、だからこそ連携が必要になるのです。それは、主治医と産業医との関係に限らず、さまざまな専門職間・スタッフ間でも同じことです。
また、連携役が必ずしも直接会ったり、話したりするだけが連携ではありません。
先ほどの主治医と産業医の関係であれば、医学の専門的な情報共有が必要になるので、連携役が間に入るより、直接医師同士が情報共有できる場面をつくった方が望ましいと考えられます。
他には主治医との関係であれば、本人が受診機関へ、厚生労働省サイト「治療と仕事の両立支援ナビ」にあるような『勤務情報を主治医に提供する際の様式例』を持参し、主治医が『主治医意見書の様式例』などに記入してもらい、それを会社へ提出してもらうことで効率的に情報共有をすることもできます。
このようなメンタルヘルスに関するツールを有効活用するよう、本人へアドバイスすることも連携といえます。
・誰が担うべきか?
「専門職と連携する役割」を担うのは、人事労務担当者や精神保健・メンタルヘルスに関わる有資格者が考えられます。
連携を行うには、医療・労働法などメンタルヘルスに関わる幅広い知見が必要になります。メンタルヘルスの問題が起きた場合に、誰でも簡単に連携を効率的にできるわけではありません。
だからこそ、問題が起きる前から「専門職などと連携する役割」が誰かを明確にし、日頃よりメンタルヘルスに関する知見を深めておく必要があります。
また、会社に有資格者がいない場合は、ぜひ資格取得などを推奨しましょう。
特に、独立行政法人労働者健康安全機構「両立支援コーディネーター基礎研修」は、短期間で医療・労働法などに関わる情報を効率的に学び、「専門職などと連携する役割」に必要な基礎を身に付けることができます。
~役割②~本人の意思を受け止める役割
・なぜ必要か?
例えば、本人が「通院時だけ仕事を休みたい」と思っていたとします。
しかし会社は、医師の助言などから「休職を勧めたい」と考えています。
この場合、会社は「休職を勧めたい」ことを伝えるだけでなく、まずは「通院時だけ仕事を休みたい」という本人の意思を受け止めるということです。
意思を受け止めることで、本人に安心感が生まれます。
そして、本人の意思を受け止めることで、本人と会社が一緒に考えるプロセスが生まれます。
会社が「休職を勧めたい」理由だけを伝えたら、本人は自らの意思が尊重されないと感じるだけでなく、『解雇されるのでは』『会社に必要とされていないのでは』など疑心暗鬼に陥るかもしれません。
本人の意思が尊重された上で、会社が「休職を勧めたい」理由を伝えることで、本人にとっても会社にとっても納得できる話し合いへとつながっていきます。
・誰が担うべきか?
何よりも大切なのは‘’相手の話をしっかりと聴く‘’ことです。
「本人の意思を受け止める役割」を担うのは、上司・人事労務担当者、さらにはカウンセラーなどの心理職が考えられます。
カウンセラーは‘’相手の話をしっかりと聴く‘’専門職です
本人に寄り添い、話を聴き、悩みや感情に共感することで、本人が自らの意思を整理することにもつながっていきます。
~役割③~本人に関わる情報を整理する役割
・なぜ必要か?
連携する専門職・スタッフなどが増えるほど、さまざまな視点が生まれ、問題の解決につながっていきます。その一方で、さまざまな視点があると、問題が複雑化するおそれがあります。また情報過多になり、個人情報・プライバシーの管理が不十分になるおそれもあります。
専門職などと連携することだけに没頭しすぎると特定の意見に偏った考えになったり、逆にすべての意見を反映しようという思いが強すぎると板挟みになったりすることもあります。
そのため連携をすることで、さまざまな‘’葛藤‘’が生まれることもあります。だからこそ「連携する役割」と「情報を整理する役割」は分けて考える必要があります。
・誰が担うべきか?
情報を整理する役割」を担うのは、まず①で示した「連携する役割を担う人」が兼ねることが、効率性から考えれば望ましいといえます。ただし、「連携する役割を担う人」の経験が浅かったり、取り扱う情報が多かったりすると‘’葛藤‘’に陥るかもしれません。
そのため、「連携する役割」と「情報を整理する役割」を別々の人に担当させる、または「連携する役割を担う人」に対して経験豊富なアドバイザー(外部専門機関、経験豊富な専門職・有資格者など)を付け「情報を整理する役割」をサポートするなどの方法が考えられます。
~役割④~会社として判断する役割
・なぜ必要か?
ケースの内容によっては、会社として明確な意思決定を求められることがあります。
つまり、③で整理した情報に基づき「会社として判断する役割」が必要な時もあるということです。
例えば、本人が休職中の場合に、主治医や産業医が復職時期の見解を出したとしても、本人の意思などを尊重した上で、最終的に復職時期を決めるのは会社になります。
しかし、その実務的な最終判断を行うのが‘’会社の中の誰か‘’ということが明確でないと、本人への対応方針があいまいになったり、何かあった時に責任の所在が不明瞭になったりするおそれがあります。
・誰が担うべきか?
「会社として判断する役割」を担うのは、実務的に人事労務担当部門などの上級管理者などが考えられますが、事前に会社としてのルールを決めておくことが大切です。
例えば「合議体(復職判定委員会など)が判断を下す」「フローチャートを作成し、そこに明記された責任者が判断を下す」などです。
そしてそのルールづくりは、従業員の健康の保持増進の措置を担う「衛生管理者(衛生委員会)」などを交えてつくることが望ましいでしょう。
~役割⑤~本人に寄り添い続ける役割
・なぜ必要か?
メンタルヘルスに関する「専門職と連携する」「会社として判断を下す」などの仕組みは当然必要なのですが、留意すべきは『仕組みをつくって安心しないこと』です。
例えばハラスメントでも、会社の措置義務として「相談窓口を設置する」と定めた場合に、法律を遵守したという安心感が無意識に生まれるかもしれません。
しかし、本来の目的は「相談窓口を設置する」ことではなく、『ハラスメントを防止する』『誰もが働きやすい職場環境をつくる』ことです。
大切なのは、その目的を果たすため「相談窓口を設置する」ことをどのように活用していくかということです。
そして、メンタルヘルスにおいて見落としがちなのが、「本人に寄り添い続ける役割」です。
専門職と連携することで満足する、会社として判断を下したことで安心するなどで、見落としがちな部分です。
だからこそ「寄り添い続ける役割」をあらかじめ明確にする必要があります。
本人の日々の体調や仕事の様子を確認したり、定期的に面談をして話を聴く機会を設けたりするなど、具体的な行動も明確にする必要があります。
・誰が担うべきか?
「寄り添い続ける役割」を担うのは、本人が所属する部署の上司など、日常から本人を見守ることができる立場の方が考えられます。
しかし誰がその役割を担うにしても、すべてをその人に責任を負わせることは避ける必要があります。「寄り添い続ける役割」を明確にした上で‘’その人をフォローする役割‘’もまた必要になります。
仮に上司が「寄り添い続ける役割」を担った場合に、本人にとって上司という関係性だからこそ話しにくいこともあるかもしれません。そのような場合は、同僚が本人をさりげなくフォローできる、定期的にカウンセラーが話を聴くことができるなどの職場環境が求められることになります。
また、上司がメンタルヘルスに関する専門的な知見があるとも限りません。そのような場合は、人事労務担当部門や有資格者などと連携を取れる体制が必要になることも考えられます。
4 まとめ
以上①~⑤の内容を表にまとめました。
連携する場合に「①専門職などと連携する役割」は自ずと決まると思いますが、②~⑤の役割はあまり最初からクローズアップされず、連携を実践して振り返った時に「こういう役割が必要だった」と感じる部分かもしれません。
ぜひ、あらかじめこれらの役割を社内で明確化しておき‘’チームプレイ‘’で連携を実践しましょう。
必要な役割 | 誰が担う? | ポイント |
①専門職などと連携する役割 | ・人事労務担当者 ・メンタルヘルスに関する有資格者 など |
・メンタルヘルスに関わる幅広い知見が必要 ・会う、話すだけでなく、さまざまなツールを使うのも連携 ・「両立支援コーディネーター基礎研修」修了などを目指す。 |
②本人の意思を受け止める役割 | ・本人の上司 ・人事労務担当者 ・カウンセラー など |
・本人に安心感が生まれる ・本人と会社が一緒に考えることにつながる ・大切なのは「相手の話をしっかりと聴く」 ⇒そのプロは、カウンセラーなど心理職 |
③本人に関わる情報を整理する役割 | ・人事労務担当者 ・メンタルヘルスに関する有資格者 など |
・情報過多だと問題が複雑化するおそれ ⇒連携する役割が‘’葛藤‘’に陥ることも ・「連携」と「情報整理」の担当を別々に、情報整理のためアドバイザーを付けるなど |
④会社として判断する役割 | ・合議体(復職判定委員会など) ・人事労務担当部署の上級管理者 など |
・③の情報に基づき、実務的な最終判断は誰が行うかを、会社として責任を明確に ・合議体が判断、フローチャート作成など ・衛生管理者を交えルールづくり |
⑤本人に寄り添い続ける役割 | ・本人の上司 など |
・連携や仕組みづくりで、安心してしまい、見落としがちな部分 ・フォロー体制が必要(同僚、カウンセラー、 人事労務担当者、有資格者など) |