勤怠データの分析のやり方|実施するメリットや分析例を交えて解説

勤怠管理 / クラウド
はじめに
社員の出退勤記録や休暇状況などを管理する勤怠データは、単なる業務上の記録にとどまらず、組織運営の効率化や課題発見に役立つ重要な経営資源です。中でも勤怠データの分析は、働き方の実態を可視化し、労働時間の偏りや残業の傾向、休暇取得の状況などを把握する手段として、近年ますます注目されています。今までは勤怠管理といえば「勤務時間を記録するだけ」の業務でしたが、クラウド型勤怠システムの普及により、蓄積されたデータを活用した分析が可能となったことにより、従業員の健康管理や業務効率の向上、ひいては職場環境の改善につなげる企業も増えています。
本記事では、勤怠データをどのように分析し、どんなメリットを得られるのか、また具体的な分析例や、実施するうえでのポイントについて解説します。データを活用した働き方改革を進めたい企業のご担当者にとって、実務で役立つヒントとなれば幸いです。
第1章 勤怠データを分析する目的と背景
なぜ勤怠記録を分析するのか
勤怠記録は、社員がいつ出勤し、いつ退勤し、どれだけの時間を働いたのかが記録されたものですが、それだけにとどまりません。これらのデータを集約・分析することで、組織内の働き方の傾向や偏り、業務負荷の不均衡といった“見えにくい課題”を発見することが可能になります。とくに、人手不足が深刻化している現代の職場では、一人ひとりの労働実態を正確に把握し、適正な労務管理を行うことが求められています。また、勤怠分析は経営判断にも活用できる情報の源泉です。どの部署で残業が多いのか、あるいはどのチームで有給休暇が取得されていないのかなど、組織全体の状態を客観的に把握することで、制度や運用ルールの見直し、業務改善のヒントにつながります。
勤怠データが持つ経営的価値
一見すると単なる業務データに見える勤怠データですが、視点を変えると、それは社員の行動履歴や時間の使い方を表す“経営データ”でもあります。特定の時期に特定の部署の残業時間が急増していれば、それは業務フローや人員配置に何らかの問題がある可能性を示唆しています。また、長時間労働の傾向が続いている社員については、メンタルヘルスや離職リスクを早期に察知する材料にもなりえます。このように、勤怠データを経営戦略に役立つ情報として活用することが、現代の組織に求められる視点となってきています。
働き方改革とデータ活用の関係
政府主導で進められている働き方改革の流れの中でも、データの活用は非常に重要な役割を果たしています。従業員の健康確保や多様な働き方の推進といった目標を実現するためには、現状の働き方を正確に把握し、必要な対応策を講じる必要があります。そのためにも、定量的な情報である勤怠データは欠かせない要素なのです。実際、多くの企業が残業時間の削減や有給休暇の取得推進といった目標を立て、KPIとして勤怠データを活用しています。これにより、感覚や経験に頼らない客観的な判断が可能になり、職場全体の働き方の質が向上していきます。
第2章 具体的な分析のやり方
収集すべき情報とフォーマット
勤怠データを分析するには、まず収集すべき情報の整理から始める必要があります。基本となるのは、出勤・退勤時刻、労働時間、休憩時間、残業時間、有給休暇の取得状況などです。さらに詳細に見る場合には、曜日別の勤務傾向や、部署ごとの出勤パターン、時期ごとの変動なども加味すると、より深い分析が可能になります。これらのデータは、エクセルなどの表計算ソフトにまとめられている場合もあれば、クラウド型の勤怠管理システムに蓄積されているケースもあります。後者の場合、多くのシステムにはCSV出力や自動レポート機能が備わっており、データ抽出が容易に行えます。分析を行う際には、データの形成やフォーマットの統一も重要で、不要な項目を省き、必要な指標に合わせて列を整理することが第一歩です。
基本的な分析方法と指標
勤怠データの分析には、いくつかの基本的な方法と注目すべき指標があります。まず注目すべきは、社員ごとの月間労働時間や残業時間の推移です。これにより、長時間労働の傾向や、特定の時期に業務が集中していないかを把握することができます。また、部署単位で集計すれば、チームごとの業務負荷のバランスも見えてきます。次に、休暇の取得率や平均取得日数も重要な分析ポイントです。取得率が低い社員が多い部署では、職場の雰囲気や業務配分に問題がある可能性があります。また、遅刻・早退・欠勤の頻度や傾向を調べることで、勤怠不良の予兆を捉えることもできます。
グラフや可視化による見える化の手法
分析の結果を組織内で共有する際には、グラフやチャートを活用した「見える化」が効果的です。たとえば、月ごとの残業時間を棒グラフで表したり、有給休暇取得率の推移を折れ線グラフで表示することで、誰が見ても一目で状況が理解できるようになります。ヒートマップを用いて曜日別の出勤傾向を示すことで、業務の偏りを可視化する方法もあります。また、部署ごとの勤務時間を円グラフで比較するなど、視覚的に訴える資料を作ることで、経営層や現場リーダーとのコミュニケーションもスムーズになります。
第3章 勤怠データを活かすメリット
長時間労働の抑制と健康管理
勤怠データを分析することで得られる最大の利点のひとつが、長時間労働の実態を把握し、早期に対策を打てる点です。従業員の月間残業時間や深夜労働の頻度が可視化されることで、法定労働時間を超える勤務や、過重労働の兆候を見逃さずに済みます。これにより、企業は健康障害や労働基準法違反といったリスクを未然に防ぎ、働く人の心身の安全を守ることが可能になります。また、体調不良による遅刻や欠勤が続く社員を早期に発見し、面談や産業医の紹介といった適切なフォローにつなげることもできます。定期的に勤怠データをレビューする仕組みがあることで、問題が深刻化する前に手を打つ体制が整い、社員のエンゲージメント維持にも寄与します。
部門ごとの労働バランスの最適化
全社的に集められた勤怠記録を部署ごとに分析すれば、業務負荷の偏りや労働時間のバランスを把握することができます。ある部署では毎月残業が常態化しているのに対し、他の部署では定時退勤が多いといったケースがあれば、人員配置や業務フローの見直しが必要かもしれません。こうした情報は、業務の属人化を防ぎ、組織全体のパフォーマンスを平準化するためのヒントにもなります。特定のメンバーに業務が集中していないか、繁忙期の対応に差が出ていないかを確認することで、働きやすい職場づくりと生産性向上の両立が目指せます。
人材活用・配置転換の判断材料に
勤怠データは、人材マネジメントの判断材料としても有効です。たとえば、業務時間に対して成果が伸び悩んでいる部署や、勤務日数は多いものの休憩を十分に取れていない社員がいた場合、配置転換や業務分担の見直しを検討するきっかけになります。また、勤怠の安定性や柔軟な働き方への適応度を評価することで、テレワークの導入可否や時差出勤の適用範囲を判断する際にも役立ちます。勤怠の記録は、単に過去の行動履歴というだけでなく、今後の働き方や人材配置を計画するうえでの“未来を見据えたデータ”として活用できるのです。
第4章 よくある分析例と実践事例
残業時間と生産性の関係性分析
勤怠データの活用でよく行われるのが、残業時間と生産性との関係を可視化する分析です。たとえば、特定の部署において残業時間が多いにもかかわらず、成果やアウトプットが他部署に比べて低いといった状況がある場合、それは業務フローの非効率や人材配置のミスマッチが存在している可能性を示しています。このような分析は、単なる時間の長短だけでなく、「働き方の質」に着目する上で非常に重要です。必要に応じて、業務内容の見直しや、ツールの導入による業務自動化などの改善策を講じることで、生産性を高めながら労働時間を削減することが可能になります。
有給休暇取得率の推移と課題の可視化
有給休暇の取得状況を定点観測し、年度ごとの推移を比較することも、有効な分析の一つです。特定の部署や個人で取得率が著しく低い場合、業務の属人化や職場の雰囲気、管理職のマネジメントスタイルに課題があるかもしれません。たとえば、ある企業では有給取得率が低迷していた営業部門において、マネージャーの率先取得と取得目標の明示によって、取得率が大幅に改善したという事例もあります。こうした改善活動も、データによる裏付けがあることで説得力が増し、社員の納得感や協力も得やすくなります。
離職リスクの予兆を探る分析
勤怠データは、離職の兆候をつかむための材料にもなります。たとえば、残業時間が急増した社員や、急に欠勤や遅刻が増えた社員、出勤日数は多いのにパフォーマンスが下がっている社員などは、心身の不調やモチベーション低下が背景にある場合があります。実際に、勤怠の乱れが見られた社員への面談を実施した結果、業務負担の偏りや職場の人間関係の問題が明らかになり、配置転換やサポート強化によって離職を防げた事例もあります。こうした予兆の早期発見は、人材の定着率を高める上で非常に効果的です。
第5章 分析を導入する際の注意点
データの信頼性と入力精度の確保
勤怠データを分析するうえでまず重要なのが、データそのものの正確性です。入力ミスや打刻漏れ、申請の未反映などがあると、分析結果も大きく誤ったものになってしまいます。たとえば、残業時間が過少に記録されていると、本来必要な対策を見逃してしまう恐れがあります。そのためには、システム導入時や運用ルールの整備段階で、打刻方法や申請ルールを明確に定め、定期的にデータの点検を行う体制を構築することが欠かせません。また、勤怠システムの機能を活用して、不自然な打刻に対してアラートを出す仕組みを取り入れると、信頼性の高いデータ収集が可能になります。
プライバシーとコンプライアンスへの配慮
勤怠記録には個人の勤務状況や生活習慣に関する情報が含まれており、取り扱いには細心の注意が求められます。分析結果が個人を特定できる形で共有された場合、プライバシーの侵害や職場内での不信感につながる恐れがあります。とくに分析レポートを管理職や他部署と共有する場合には、必要最小限の範囲にとどめ、個人名ではなく所属や傾向といった集計データとして表現することが重要です。また、情報の取り扱いについては、社内でのガイドラインや研修を通じて周知し、情報漏洩や不適切な利用を防止する仕組みづくりが求められます。
社内で継続的に活用する体制づくり
勤怠データの分析は一度実施して終わりではなく、継続的な取り組みがあってこそ効果を発揮します。そのためには、分析を担当する部門や担当者を明確にし、定期的にレポートを作成・共有する習慣をつけることが大切です。また、分析結果を活用した施策が現場で実際に機能しているかを検証するフィードバック体制も重要です。たとえば、有給休暇取得率を向上させる施策を導入した場合、その後の数値の変化を確認し、必要に応じて修正を加えることで、より実効性の高い運用につながります。加えて、データ分析の知識やスキルを持つ人材の育成も今後の課題です。ExcelやBIツールの操作に加え、労務管理や人事の視点をもってデータを読み解く力が求められます。外部研修やeラーニングを活用して、データを使いこなせる人材を社内に育てていくことも、持続的な活用に欠かせないポイントとなるでしょう。
まとめ
勤怠データの分析は、これまでの「記録するだけ」の勤怠管理から一歩進んだ、より戦略的な労務管理を実現するための強力な手段です。出退勤時間や残業、有給休暇の取得状況といった日々の業務の積み重ねからは、職場の課題や改善のヒントが数多く見えてきます。これらの情報を丁寧に集め、分析・可視化することで、働き方の現状把握や従業員の健康管理、生産性向上につなげることが可能になります。
本記事では、まず勤怠データを分析する目的と背景を明らかにし、次にどのように情報を収集・整理し、具体的にどのような方法で分析するかをご紹介しました。さらに、分析によって得られるメリットとして、長時間労働の抑制、業務負荷の平準化、人材配置の最適化といった点にも触れ、最後に実際に役立つ分析例と導入時に気をつけるべき点を整理しました。
実際の現場では、分析結果をもとにした改善活動が職場全体の意識改革を促すケースも少なくありません。たとえば、勤怠データを用いて部署ごとの残業傾向を共有したところ、マネージャーが部下の負担を見直すようになった、あるいは有給取得率が社内で話題になり、積極的に休暇を取得する風土が生まれた、というようなポジティブな変化が報告されています。一方で、データの精度やプライバシー保護、継続的な運用体制といった課題にも注意が必要です。信頼できるデータを土台にし、適切な目的とルールを持って分析を行うことで、はじめてその効果が最大限に発揮されます。勤怠データは、企業にとって日常的かつ身近な情報であるからこそ、活かし方ひとつで大きな成果をもたらします。まずは簡単な集計から始め、少しずつ分析と活用の幅を広げていくことで、自社に合った“働き方の見える化”が実現できるはずです。
これからの時代、感覚や経験だけではなく、客観的なデータに基づいた判断と改善が、組織をより強く、しなやかに育てていく鍵になることでしょう。