厚労省、監督指導による賃金不払残業の是正結果を公表
時間外労働 / 残業代
目次
厚労省、監督指導による賃金不払残業の是正結果企業数1,768社を公表(平成30年度)
厚生労働省から、「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成30年度)」が公表されました。
この是正結果の公表は平成14年度から毎年度行われているものです。
今回公表されたのは、全国の労働基準監督署が賃金不払残業に関する労働者からの申告や各種情報に基づいて企業へ監督指導を行った結果、平成30年4月から平成31年3月までの期間に不払いだった割増賃金が各労働者に支払われたもののうち、その支払額が1企業で合計100万円以上の支払いがなされた事案を取りまとめたものです。
【平成30年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント】
(1) 是正企業数:1,768企業(前年度比 102企業の減)うち、1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは、228企業(前年度比 34企業の減)
(2) 対象労働者数:11万8,837人(同 8万9,398人の減)
(3) 支払われた割増賃金合計額:125億6,381万円(同 320億7,814万円の減)
(4) 支払われた割増賃金の平均額は、1企業当たり711万円、労働者1人当たり11万円
監督指導の対象となった企業では、その監督指導のもと、タイムカードの打刻時刻やパソコンのログ記録と実働時間に隔たりがないかを定期的に確認するなど、賃金不払残業の解消のためにさまざまな取り組みを行い、改善を図っているようです。
厚生労働省では引き続き、賃金不払残業の解消に向けて監督指導を徹底していくとのことです。
賃金不払残業の解消のための取組事例
そこでここでは、厚生労働省が公表している賃金不払残業の解消に向けた取組事例をご紹介したいと思います。
事例1(業種:小売業)
【賃金不払残業の状況】
・「残業をしている労働者がいるにもかかわらず、管理者が労働者全員のタイムカードを終業時刻に合わせて打刻している」という労働者からの情報を基に、労基署が立入調査を実施。
・会社はタイムカードにより労働時間を管理していたが、その記録と入退館記録との間に乖離が認められたことから、タイムカード打刻後も作業が行われており、賃金不払残業の疑いが認められたため、労働時間の実態を調査するよう指導が行われた。
【企業が実施した解消策】
・会社は、入退館記録などを基に労働時間の実態調査を行った上で、不払となっていた割増賃金を支払った。
・賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
① タイムカードの代わりに、他人が記録できない生体認証による労働時間管理の仕組みを導入した。
② 同システムの記録と入退館記録との間に乖離があった場合は、部署の管理者に対し、書面により指導を行うこととした。
③ 労働時間の適切な管理方法について記載した社内向けのガイドラインを作成し、管理者を含む全労働者に配布し、周知した。
事例2(業種:金融業)
【賃金不払残業の状況】
・「割増賃金が月10時間までしか支払われない」という労働者からの情報を基に、労基署が立入調査を実施。
・会社は、自己申告(労働者による労働時間管理表への手書き)により労働時間を管理していたが、自己申告の時間外労働の実績は最大月10時間となっており、自己申告の記録とパソコンのログ記録や金庫の開閉記録との間に乖離が認められたことから、賃金不払残業の疑いが認められ、労働時間の実態調査を行うよう指導が行われた。
【企業が実施した解消策】
・会社は、パソコンのログ記録や金庫の開閉記録などを基に労働時間の実態調査を行った上で、不払となっていた割増賃金を支払った。
・賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
① 支店長会議において経営陣から各支店長に対し、労働時間管理に関する不適切な現状及びコンプライアンスの重要性を説明し、労働時間管理の重要性について認識を共有した。
② 労働時間の適正管理を徹底するため、自己申告による労働時間管理を見直し、ICカードの客観的な記録による管理とした。
③ ICカードによる終業時刻の記録を行った後も業務に従事していないかを確認するため、本店による抜き打ち監査を定期的に実施することとした。
事例3(業種:小売業)
【賃金不払残業の状況】
・厚生労働省の過重労働解消相談ダイヤルに寄せられた「違法な長時間労働が行われている」という労働者の家族からの情報を基に、労基署が立入調査を実施。
・会社は、自己申告(労働者が残業申請書を提出し、上司が承認)により労働時間管理を行っていたが、自己申告の記録と警備システム記録との乖離から賃金不払残業の疑いが認められたため、労働時間の実態調査を行うよう指導が行われた。
【企業が実施した解消策】
・会社は、警備システム記録や労働者からのヒアリングなどを基に、労働時間の実態調査を行った上で不払となっていた割増賃金を支払った。
・賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
① 経営トップが賃金不払残業解消に取り組む方針を打ち出すとともに、全店舗の店長が出席する店長会議において、同方針の説明を行った。
② 店長が労働時間の記録と警備システム記録を照合して乖離がないかを定期的に確認し、乖離があった場合はその理由を確認するとともに、本社の総務担当者がダブルチェックを行うこととした。
③ 全労働者に対し、残業申請書に正しい残業時間を記載した上で提出するよう研修などを行った。
事例4(業種:電気機械器具製造業)
【賃金不払残業の状況】
・残業時間の過少申告が常態化しているなど、「労働時間管理について不適切な取扱いがある」という労働者からの情報を基に、労基署が立入調査を実施。
・会社は、自己申告(パソコン上で労働者が時間外労働申請を行い、上司が承認)により労働時間管理を行っていたが、自己申告の記録とパソコンのログ記録との乖離などから、賃金不払残業の疑いが認められたため、労働時間の実態調査を行うよう指導。
【企業が実施した解消策】
・会社は、パソコンのログ記録や労働者からのヒアリングなどを基に、労働時間の実態調査を行った上で不払となっていた割増賃金を支払った。
・賃金不払残業の解消のために次の取組を実施した。
① 労働時間の自己申告方法を含む適切な労務管理について記載したガイドブックを作成し、管理者を含め、全労働者に周知した。
② 労働時間管理上の問題点などについて労使で定期的に話合いの場をもち、必要な改善を行うこととした。
③ 自己申告の記録とパソコンのログ記録との間に乖離があった場合は、上司がその理由を確認する仕組みを導入した。
これらの事例を見ると、解消策のポイントは以下にまとめられます。
① 経営トップによる明確な方針の打ち出し
② 自己申告制を改め、勤怠管理システムを導入
③ ガイドラインの作成や研修による労働者への教育
2019年4月より裁量労働制の労働者や管理監督者も含めて、労働時間の状況を客観的に把握することが企業に義務付けられています。これは割増賃金の適正な支払いのみならず、労働者の健康管理の観点から義務付けられたものです。
自己申告での労働時間の管理には実態との乖離といったリスクが伴います。また、乖離が認められた場合にはその実態調査を実施しなければなりません。
自己申告で労働時間管理をされている企業は法令遵守の徹底と労働者の健康確保のため、この機会に勤怠管理システムの導入を検討されてみてはいかがでしょうか。
参考: