きちんと備えられていますか? 年次有給休暇管理簿の作成・保存義務について


はじめに
年次有給休暇は、心身の疲労を回復しゆとりある生活を保障するために付与されるものです。企業にとっても、従業員の健康管理や労働生産性を維持するために年次有給休暇を適切に管理することが重要となります。2019年の労働基準法改正により、年次有給休暇の管理が義務化され、「年次有給休暇管理簿」の作成と保存が全ての企業に課されたため、企業は従業員の年次有給休暇の取得状況を正確に把握し、法定の要件を満たす形で管理することが求められています。

本記事では、年次有給休暇管理簿の義務化の背景や、その重要性について深く掘り下げるとともに、企業が実際に管理簿を作成・保存する際の具体的な手順を解説します。さらに、管理簿の適切な保管方法や、法的トラブルを防ぐためのベストプラクティスも紹介し、年次有給休暇管理に必要な基本的知識を提供します。

第1章 年次有給休暇管理簿の作成と管理方法

年次有給休暇管理簿は、従業員一人ひとりの年次有給休暇の付与日数、取得状況、残りの年次有給休暇日数を正確に把握するために、企業が作成する必要がある法定帳簿です。この管理簿は、労働基準法に基づいて作成が義務化されており、全従業員に対して適用されるため、どの企業も漏れなく管理を行う必要があります。本章では、年次有給休暇管理簿の基本構造と、作成時に注意すべき点、さらに管理に必要なツールについて詳しく解説します。

管理簿の基本構造と必要項目の説明

年次有給休暇管理簿は、以下のような項目を網羅的に記載し、各従業員ごとに年次有給休暇の状況を明確に管理するための重要な書類です。法定で求められる基本項目を一つずつ見ていきます。

  1. 従業員の氏名および従業員番号
    最初に記載すべき項目は、従業員の氏名と従業員番号です。管理対象となる従業員を一人ひとり識別できるように、氏名とともに従業員番号を明記します。従業員番号は、企業内での人事管理システムとの連携を容易にし、他の記録と紐付けするための重要な情報です。大企業など従業員数が多い場合、従業員番号を用いることで、より効率的な管理が可能になります。
  2. 年次有給休暇の付与日および付与日数
    年次有給休暇は、労働基準法に基づき、一定期間継続して勤務し、80パーセントの出勤率を満たした従業員に対して付与される権利です。管理簿には、各従業員に対して何日間の年次有給休暇が付与されたか、その日付とともに正確に記録します。たとえば、入社日から6ヶ月経過した時点で10日間の年次有給休暇が付与されるといったケースでは、その具体的な付与日を正確に記録する必要があります。
    付与日数は、従業員の勤続年数や労働日数に応じて変動するため、これを自動的に計算できるツールを活用すると、管理の精度が向上します。また、従業員によっては、パートタイム労働者など日数が異なるケースがあるため、個別対応も必要です。
  3. 取得した年次有給休暇の日付と取得日数
    年次有給休暇の取得状況も詳細に記録しなければなりません。従業員が実際に年次有給休暇を取得した日付と、その日数を管理簿に記載し、従業員がどれだけの年次有給休暇を消化したのか、また残りの年次有給休暇日数がどれだけあるのかが明確になります。
    例えば、従業員Aが5月15日に1日の年次有給休暇を取得した場合、「取得日:5月15日」「取得日数:1日」と具体的に記録します。こうした日々の記録が管理簿に蓄積されることで、正確な年次有給休暇取得状況を把握することが可能です。
  4. 残りの年次有給休暇の日数
    年次有給休暇の取得状況を記録するだけでなく、残りの日数も記載する必要があります。これにより、従業員がまだ取得できる年次有給休暇の日数を正確に把握し、将来的な年次有給休暇取得の計画が立てやすくなります。企業にとっても、年次有給休暇の消化状況を確認し、従業員に取得を促すことができます。

    例えば、従業員が10日間の年次有給休暇を付与され、そのうち5日を取得した場合、残り5日があることを明示的に記録します。これにより、年次有給休暇が適正に消化されているかを確認することができ、消化しきれずに権利が失効するのを防ぐことができます。

作成時の注意点と管理に必要なツールの紹介

年次有給休暇管理簿の作成には、いくつかの重要な注意点があります。特に、正確でタイムリーな記録を維持することが重要であり、遅延やミスが発生すると、後々の法的トラブルや従業員との信頼関係に影響を与える可能性があります。

  1. 正確なデータの入力とタイムリーな更新
    年次有給休暇の付与や取得の記録は、従業員の年次有給休暇が発生するごとにリアルタイムで更新されることが求められます。年次有給休暇取得後に記録が漏れると、年次有給休暇の消化状況が把握できなくなり、最終的に企業が管理不十分とみなされるリスクがあります。多くの従業員を抱える企業では、勤怠管理と連動して自動的に更新されるシステムの活用が有効です。
  2. デジタルツールの導入による効率化
    年次有給休暇の管理は、手作業で行うと非常に煩雑であり、ミスのリスクも高まるため、デジタルツールの導入が推奨されます。以下のようなツールを活用することで、効率的かつ正確な管理が可能となります。
    • 人事管理ソフトウェア
      人事管理ソフトウェアや勤怠管理システムは、年次有給休暇の付与日や残日数を自動的に計算し、取得状況もリアルタイムで更新することができ、手作業での入力ミスを防ぎ、正確なデータ管理が可能となります。また、労働基準法に準拠した機能を持つソフトウェアを使用すれば、法令に沿った管理が容易に実現できる点もメリットです。
    • クラウドベースの管理ツール
      クラウドベースの管理ツールは、従業員がどこからでも自分の年次有給休暇取得状況を確認したり、年次有給休暇を申請したりできる便利な機能を備えています。また、クラウドでデータを保存するため、バックアップも自動で行われ、万が一のシステム障害やデータ消失に対しても安全です。

担当者の交代や他部署との連携がスムーズに行える点も、クラウドツールの大きな利点です。従業員の年次有給休暇管理だけでなく、出退勤管理や給与計算との連携機能があるツールを導入することで、全体的な業務効率も向上します。

第2章 保存義務とその対応策

法的な保存期間とその重要性

労働基準法では、年次有給休暇管理簿の保存義務が定められています。この法的な保存期間は、令和2年の法令改正後に5年間になりました。ただし、しばらくの間は経過措置として3年間とされています。年次有給休暇を付与することは会社の義務であるため、従業員の年次有給休暇取得状況をを正確に記録し、将来的に労働基準監督署からの監査に対応できるようにするためです。保存期間は、年次有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間です。

法的トラブルを避けるためのベストプラクティス

法的トラブルを避けるためには、日々の管理を怠らないことが重要です。以下のような対応策を実行することで、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。

  1. データの二重保存
    紙媒体での管理とデジタル化されたデータの二重保存を行うことで、どちらか一方のデータが損失した場合でも、もう一方のデータを用いて対処できるようになります。クラウドベースのシステムを導入することで、遠隔地からのデータアクセスや災害対策としてのバックアップが可能です。
  2. 従業員への定期的な周知
    年次有給休暇の取得状況や残日数を従業員に提供する方法として、給与明細にこれらの情報を含めることは非常に有効です。

    給与明細の項目に以下のような情報を追加することが考えられます:

    • 年次有給休暇取得日数: 今月中に取得した年次有給休暇の日数を表示。
    • 残りの年次有給休暇日数: 現時点で残っている年次有給休暇の日数を表示。
    • 次回付与される年次有給休暇の時期: 次の年次有給休暇付与日を記載し、従業員が計画的に取得できるようサポート。

    これにより、従業員は常に自分の年次有給休暇状況を把握でき、計画的な取得が促進されます。

  3. 監査対応の準備
    労働基準監督署の監査に備え、必要なデータや書類を整理しておくことが大切です。事前に管理体制を整えておくことで、監査対応の際の混乱を防ぐことができます。

第3章 具体的な管理のステップ

年次有給休暇管理簿を正確に保管するための手順

年次有給休暇管理簿を適切に保管するための基本的なステップを以下に示します。

  1. 人事管理システムの導入
    年次有給休暇の管理を手作業で行うとミスが発生しやすいため、まずは人事管理システムや勤怠管理システムを導入しましょう。自動化された管理を実現することで、年次有給休暇の付与日や取得状況がリアルタイムで管理されます。
  2. 定期的なデータ確認とバックアップ
    定期的に管理簿の内容を確認し、必要に応じて更新を行います。万が一のシステムトラブルに備え、定期的にデータのバックアップを取ることも重要です。クラウドベースのシステムを使用している場合は、バックアップが自動化されていることが多いですが、手動での確認も怠らないようにしましょう。
  3. 透明な情報共有
    年次有給休暇の管理は、従業員の権利に関わるため、透明性が重要です。定期的に従業員に対して年次有給休暇の残日数や取得状況を共有することで、トラブルを未然に防ぎ、計画的な有給取得を促進します。

企業が従うべきガイドラインと事例紹介

企業が年次有給休暇管理を行う際には、法令やガイドラインをしっかりと理解しておくことが不可欠です。厚生労働省が提供する労働基準法関連のガイドラインでは、年次有給休暇の付与や取得に関する詳細な指示が示されています。

具体的な成功事例として、ある中小企業ではクラウドベースの勤怠管理ツールを導入し、従業員がスマートフォンで簡単に有給申請や残日数の確認ができる仕組みを整えました。このシステムにより、有給管理が効率化され、従業員の年次有給休暇取得率が向上し、長時間労働の削減にも貢献しました。

まとめ
年次有給休暇管理簿は、2019年の労働基準法改正により義務化され、全ての企業が従業員の年次有給休暇取得状況を正確に把握し、法定要件に基づき管理する必要があります。

管理簿には従業員の氏名や従業員番号、年次有給休暇の付与日・付与日数、取得日・取得日数、残日数を記録することで、従業員の年次有給休暇状況を適切に管理し、法的な問題を回避できます。管理に際しては、正確でタイムリーな更新が必要です。デジタルツールを活用することで、効率的な管理が実現し、ミスの防止やデータの一元管理が可能です。具体的には、人事管理ソフトやクラウドベースの管理ツールが推奨されており、これらは自動更新やバックアップ機能を備えています。

年次有給休暇管理簿の保存期間は経過措置で3年間と定められており、法的トラブルを避けるため、データの二重保存や従業員への情報提供が求められます。労働基準監督署の監査に対応するためにも、適切な管理体制を整えておくことが重要です。

最後に、具体的な管理手順として、システムの導入、定期的なデータ確認とバックアップ、従業員との透明な情報共有が挙げられます。こうした管理体制の整備により、従業員の権利を守り、企業の法令遵守が確実になります。

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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実