【企業向け】経費精算の不正でよくあるケースを紹介。具体的な対策方法も紹介


はじめに
企業において経費精算は必要不可欠な業務ですが、不正の温床になりやすい分野でもあります。適切な管理が行われていないと、不正行為が常態化し、企業の財務基盤に悪影響を及ぼす可能性があります。特に、経費精算の不正は発覚しにくいため、気づいたときには大きな損失につながっていることも少なくありません。

本記事では、企業が直面しやすい経費精算に関する不正のケースを具体的に紹介するとともに、それを防ぐための対策方法について詳しく解説します。不正が発生する背景やリスクを理解し、適切な管理体制を構築することで、企業の透明性を高めることが可能です。経費精算の適正化を目指す企業の担当者は、ぜひ参考にしてください。

第1章 経費精算の不正とは?発生する背景とリスク

経費精算の不正は、企業の財務状況に影響を与えるだけでなく、組織の信用を失う原因にもなります。まず、経費精算に関する不正の定義や種類を明確にし、その背景やリスクについて考えていきましょう。

経費精算不正の定義と種類

経費精算の不正とは、従業員が本来認められない経費を会社に請求し、不当に利益を得る行為を指します。この不正にはいくつかの種類がありますが、代表的なものとして架空請求、私的利用の経費計上、水増し請求などが挙げられます。架空請求とは、実際には発生していない経費を請求する行為であり、架空の領収書を用いたり、存在しない取引をでっち上げたりすることが含まれます。私的利用の経費計上は、プライベートな出費を業務上の経費として申請する手口であり、会社のクレジットカードを私的に使用するケースがこれに該当します。水増し請求は、実際にかかった経費よりも多く申請する不正行為であり、交通費や接待費などでよく見られます。

不正が発生しやすい背景

企業において経費精算の不正が発生しやすいのは、チェック体制が不十分な場合が多いためです。特に、紙ベースでの経費精算を行っている企業では、領収書の改ざんや虚偽の申請が容易に行われてしまいます。また、経費の承認プロセスが形骸化していると、上長が十分に精査せずに承認することがあり、不正が見過ごされる可能性が高まります。さらに、企業文化として「少額なら大丈夫」「みんなやっている」という意識がある場合、不正が常態化しやすくなります。特に、経営陣や上層部が経費の不正利用を黙認していると、組織全体に悪影響を及ぼし、コンプライアンス意識の低下を招くことになります。

企業が抱えるリスク

経費精算の不正が発覚すると、企業は財務面だけでなく、信用の面でも大きなダメージを受けることになります。内部監査や外部監査で発覚した場合、対外的な信頼を損なうだけでなく、不正を行った従業員への処分や法的対応が必要になるケースもあります。また、不正の発覚によって従業員間のモラルが低下し、組織の雰囲気が悪化することも考えられます。さらに、継続的に経費の不正が行われている場合、企業の財務状況に影響を与え、長期的な経営リスクを高める要因となります。特に、経営が厳しい状況の中で不正が横行すると、資金繰りの悪化につながる可能性もあるため、経費管理の適正化は重要な課題といえるでしょう。

第2章 企業でよく見られる経費精算の不正ケース

経費精算における不正は多様な手口が存在し、企業の規模や業種に関係なく発生する可能性があります。特に、精算のプロセスが曖昧だったり、管理体制が甘い企業では、従業員による意図的な不正行為が横行しやすくなります。ここでは、企業で特に多く見られる経費精算の不正事例について詳しく見ていきます。

架空請求による不正精算

架空請求とは、実際には発生していない取引や経費を装い、不正に精算する行為を指します。例えば、出張に行っていないにもかかわらず、飛行機や新幹線のチケット代を請求するケースが典型例です。また、外部の業者と共謀し、架空の請求書を作成して支払いを受ける手口もあります。こうした不正は、証拠書類が整っている場合、表面上は正当な経費として処理されるため、発見が難しくなる傾向があります。このような架空請求は、経費の管理が曖昧な企業ほど発生しやすく、特に領収書の確認が形式的になっている場合には、簡単にすり抜けてしまいます。そのため、証拠となる領収書や請求書が本物かどうかを見極めることが重要になります。

私的利用を経費に計上するケース

企業の経費として認められるものは、業務に直接関連する支出に限られます。しかし、個人的な買い物や飲食を業務用の経費として申請するケースが後を絶ちません。例えば、家族や友人との食事代を「接待交際費」として会社に請求する行為が典型的です。また、プライベートで利用したタクシー代や、趣味の書籍を「業務に必要な資料」として経費申請するケースもあります。このような不正は、一見すると業務上の支出と区別がつきにくいため、管理が不十分な企業では見逃されがちです。また、会社のクレジットカードを私的に利用し、それを経費として処理する手口もよく見られます。特に、経費の精算を承認する上司が部下の不正に気づかない、もしくは黙認してしまうケースでは、不正がエスカレートしやすくなります。

水増し請求による経費の過大申請

水増し請求とは、実際にかかった経費よりも多く請求する行為を指します。例えば、タクシー代を精算する際に、実際の運賃よりも高い金額を記載した領収書を提出するケースがこれにあたります。また、宿泊費の精算では、実際の宿泊料金に追加で架空の費用を上乗せして請求することもあります。接待交際費においては、実際には2人での会食だったにもかかわらず、「4人で利用した」と虚偽の申請を行い、費用を多めに請求するケースも見られます。このような不正は、企業が経費の明細を詳細にチェックしていない場合に起こりやすく、特に経費の上限額が決まっている場合、その範囲内で過大請求が行われることもあります。企業で発生しやすい経費精算の不正にはさまざまな手口があり、発覚しにくいものも少なくありません。不正を見抜くためには、領収書や請求書の精査はもちろんのこと、不正の兆候を早期に発見する仕組みを整えることが重要になります。

第3章 交通費精算における不正の具体例

実際に発生した交通費不正の事例

ある企業では、従業員がタクシーの領収書を改ざんし、交通費を不正請求する事例が発生しました。実際に利用したタクシー料金よりも高額な領収書を自作し、経費精算システムに提出する手口で、経理部門のチェックが甘かったため、不正は長期間発覚せず、総額で数十万円もの損害が発生しました。後に監査が行われた際、領収書のフォントやレイアウトが異なることが判明し、不正が発覚しました。また、別の企業では、従業員が定期券区間内の移動にもかかわらず、電車の運賃を申請するケースがありました。この従業員は毎月の交通費として不正に精算を続け、年間で数十万円を不正受給していました。しかし、経理部が経費精算システムとICカードの履歴を突き合わせたことで、不正が発覚しました。このような事例は、企業の経費管理が不十分な場合に発生しやすいため、不正を防ぐためにはシステムの導入やチェック体制の強化が不可欠です。

定期券を利用した二重請求

企業の多くは、従業員の通勤費を支給しており、その手段として定期券を購入するケースが一般的です。しかし、この定期券を利用した不正精算が多くの企業で問題となっています。例えば、定期券の範囲内で移動したにもかかわらず、通常の乗車券を購入したかのように装い、交通費を別途請求するケースが挙げられます。また、出張の際に定期券を利用して移動しながらも、定期券とは別の経路で交通費を申請し、二重請求を行う手口も見られます。さらに、一部の従業員は、定期券の払い戻しを行いながら、会社からの通勤費補助を受け続けるケースもあります。これらの不正は、経理担当者が交通費の詳細な履歴を確認していない場合に発生しやすく、適切な管理体制が求められます。

架空の交通費を申請する手口

交通費の不正精算には、架空の交通費を申請する手口もあります。これは、実際には移動していないにもかかわらず、出張や営業活動を装い、電車やタクシーの領収書を偽造する方法です。特に、手書きの領収書が認められている企業では、架空の領収書を作成し、不正に交通費を請求するケースが後を絶ちません。タクシーを利用していないにもかかわらず、同僚や知人からタクシーの領収書を入手し、それを自分の交通費として申請するケースもあります。こうした不正を防ぐためには、交通費の申請内容と実際の移動履歴を照合し、不審な点がないかを細かくチェックすることが重要になります。交通費の不正は、一件あたりの金額は比較的少額ですが、継続的に行われることで企業にとって大きな負担となります。そのため、企業側は適切な管理体制を整え、不正を見抜く仕組みを導入する必要があります。

第4章 経費精算の不正を防ぐための企業の対策

経費精算の不正を防ぐためには、企業側が適切な対策を講じることが不可欠です。単に不正を発見して処罰するだけではなく、不正が発生しにくい環境を整えることが重要になります。ここでは、具体的な対策として、システムの導入、監査体制の強化、従業員の意識向上の3つのポイントを解説します。

経費精算システムの導入と活用

経費精算の不正を防ぐうえで、デジタル化された経費精算システムの導入は非常に有効な手段です。従来の紙ベースの申請では、領収書の偽造や改ざんが容易に行われるため、不正の温床となりやすい傾向があります。しかし、経費精算システムを導入することで、申請から承認、支払いまでの流れを一元管理でき、不正の抑止につながります。例えば、クラウド型の経費精算システムでは、交通費の精算時にICカードの履歴を連携させることができるため、架空請求や水増し請求のリスクを大幅に軽減できます。また、AIを活用した不正検知機能を備えたシステムもあり、不正の兆候を自動的に検出することが可能です。さらに、領収書の画像データをOCR(光学文字認識)技術で解析し、金額の不一致や不審な取引を即座にチェックする機能も有効です。企業側としては、こうしたシステムを導入することで、経理担当者の負担を軽減しながら、不正の防止と管理の効率化を同時に実現できるメリットがあります。

監査体制の強化とチェックポイント

経費精算の不正を防ぐためには、監査体制を強化し、精算内容を厳格にチェックすることが重要です。特に、経費の申請が承認されるプロセスにおいて、適切なチェックポイントを設けることで、不正を未然に防ぐことが可能になります。例えば、経費申請の際に、一定額以上の経費については上長だけでなく、別の監査担当者が確認するダブルチェックの仕組みを導入することが有効です。また、定期的に経費精算の監査を行い、過去の精算データを分析することで、不正の傾向やリスクの高い領域を特定することもできます。さらに、業務ごとの経費の平均値を算出し、異常値が出た際には追加確認を行うといった手法も有効です。企業が監査体制を強化することで、従業員の間に「経費の不正はすぐに発覚する」という意識が浸透し、不正行為を未然に防ぐ効果が期待できます。

従業員へのコンプライアンス教育

経費精算の不正を防ぐためには、従業員一人ひとりの意識を高めることも欠かせません。企業側が厳格なルールを設けても、従業員のコンプライアンス意識が低いままでは、不正が発生するリスクはなくなりません。そのため、定期的な研修や教育を通じて、不正のリスクやコンプライアンスの重要性を周知することが大切です。例えば、経費精算に関する社内ガイドラインを策定し、具体的な不正行為の事例を交えながら説明することで、従業員に適正な経費精算の手続きを理解させることができます。また、「経費精算の不正が発覚した場合の処分」についても明確に伝え、不正行為が企業や従業員自身に与える影響を具体的に示すことが重要です。社内で定期的に「経費精算の適正化」に関するアンケートを実施し、従業員の意識調査を行うことも有効です。これにより、不正が発生しやすいポイントを把握し、より実効性のある対策を講じることができます。

このように、経費精算の不正を防ぐためには、システムの活用、監査体制の強化、従業員の意識向上といった多角的なアプローチが求められます。企業がこれらの対策を組み合わせることで、経費精算の透明性を高め、不正のリスクを大幅に低減することが可能になります。

第5章 不正を許さない組織文化の醸成と今後の展望

経費精算の不正を根本的に防ぐためには、企業の仕組みだけでなく、組織全体の文化を変えていくことが重要です。不正が発生しやすい環境では、ルールを強化しても抜け道を探す人が出てくる可能性があります。そのため、経費の透明性を高め、組織全体で「不正を許さない」意識を醸成することが、長期的な不正防止につながります。本章では、経営層の意識改革、内部通報制度の活用、継続的な改善の3つの視点から解説します。

経営層の意識改革と透明性の向上

企業文化の変革には、経営層の関与が欠かせません。経営層が経費精算の透明性向上に積極的に取り組まなければ、現場の従業員も本気で不正防止に取り組むことは難しいでしょう。例えば、経営層自らが経費の透明性を確保するための取り組みを発信し、率先して公正な経費管理を実践することが求められます。また、経費に関する社内ルールを明確にし、すべての従業員がアクセスできるようにすることも重要です。例えば、「経費精算ガイドライン」を社内ポータルに掲載し、随時更新することで、従業員が正しい経費精算を行いやすい環境を整えます。さらに、経営層と従業員の間で経費管理に関する意見交換の場を設け、従業員が疑問を抱いた際に気軽に相談できる仕組みを整えることも効果的です。

内部通報制度の活用と信頼性の確保

経費精算の不正を未然に防ぐためには、内部通報制度(ホットライン)の活用も重要な手段となります。不正行為は、組織内で長期間放置されると、さらに拡大する可能性があります。そのため、不正を早期に発見し、適切な対応を取るための仕組みが必要です。内部通報制度を機能させるためには、通報者の匿名性を確保し、報復行為が行われないようにすることが不可欠です。従業員が安心して通報できる環境を整えることで、不正が発生した際に迅速に対応できるようになります。また、通報された情報を適切に処理し、必要な場合には第三者機関の協力を得ることで、公平性を保つことが可能になります。通報制度の存在を周知することで、不正行為を抑止する効果も期待できます。「不正を行ってもすぐに通報される可能性がある」と従業員が認識することで、組織内のコンプライアンス意識を高めることができます。

不正防止に向けた継続的な改善

経費精算の不正を完全に防ぐことは難しいものの、企業として継続的に改善に取り組むことで、不正のリスクを大幅に減少させることができます。そのためには、定期的に経費精算のプロセスを見直し、不正の兆候を早期に発見する仕組みを整えることが重要です。例えば、定期的に経費精算のデータを分析し、異常値がないかを確認することが有効です。AIを活用した経費管理システムを導入すれば、通常とは異なる申請パターンを検出し、不正の疑いがある取引を自動でアラートすることも可能です。また、社内監査の頻度を増やし、監査担当者がランダムに経費申請をチェックする仕組みを導入することで、不正を未然に防ぐことができます。さらに、企業ごとに適した経費管理のルールを柔軟に調整し、従業員の負担を減らしつつ、透明性を高めることも大切です。例えば、領収書の提出ルールを厳格にする代わりに、一定額以下の経費はキャッシュレス決済を義務付けることで、不正の余地を減らすといった工夫が考えられます。

まとめ
経費精算の不正は、企業の財務状況だけでなく、組織の信頼にも大きな影響を与えます。企業が経費精算の透明性を高めることで、不正のリスクを減少させ、従業員のモラル向上にもつながります。本記事で紹介したように、システムの導入、監査体制の強化、コンプライアンス教育、組織文化の改革といった多面的なアプローチが、不正を防ぐためには不可欠です。特に、企業文化の醸成は長期的な取り組みが必要ですが、経営層の意識改革と従業員の協力があれば、不正を許さない風土を作り上げることが可能です。今後も企業として継続的に改善を重ね、経費管理の適正化に取り組むことが求められます。経費精算の透明性を確保することで、企業の健全な成長を支える土台を築いていきましょう。

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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実