「休み方改革」のススメ。年次有給休暇の正しい運用とは?
働き方改革
年次有給休暇の取得促進などを目指す取り組みである「休み方改革」をご存知でしょうか。
有休を取得すれば、心身ともにリフレッシュし、生産性向上などが期待できます。
また、働き方改革にて有休の年5日取得も義務化され、違反した場合の罰則も設けられているため注意が必要です。
この記事では、休み方改革の概要や有給休暇の基本ルール、年5日取得の義務化などについて詳しく解説します。
休み方改革や有休に関するルールを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
休み方改革とは
休み方改革とは、特定期間における休暇集中の改善や有給休暇の取得促進など、働く人が休みやすい環境整備を目的とする取り組みのことです。
2014年に内閣府主導の「休み方改革ワーキンググループ」が発足し、さまざまな施策が実施されています。
ここからは、休み方改革が推進される理由や、働き方改革との相違点と関係性について詳しく解説します。
休み方改革が推進される理由
休み方改革が推進される背景には、有休の取得率向上と休日を活用した消費活動の促進があります。
近年は、働き方改革関連法などの定めにより有休の取得率が高まっていますが、国際的にみれば高くありません。
以下は世界の大手総合旅行ブランド「エクスペディア」が調査・発表した「世界16地域 有給休暇・国際比較調査 2022」の結果です。
出典:日本、有給休暇の取得率 世界ワースト 2 位|エクスペディア
上記によれば、日本の有休取得率はワースト2位で、日本政府が目標として掲げる有休取得率70%にも届いていません。
有休の取得は、心身のリフレッシュによる労働生産性の向上が期待できます。
また、自由な時間が増えれば、個人の消費活動も活性化するでしょう。
休暇が取りやすくなれば、外出の機会や趣味に使う時間が増え、お金を使うシーンが増加します。
経済効果が見込まれるため、将来の賃金の増加や雇用の創出が期待できます。
休暇の時期が分散すれば、繁忙期・閑散期の差を平準化でき、交通機関の利用集中や渋滞緩和にもつながるでしょう。
休み方改革と働き方改革の相違点と関連
政府は、休み方改革と同時に働き方改革も推進しています。
名称通り、休み方改革は休暇の取得と取り方を対象にし、働き方は労働条件やスタイルなどを対象にした制度です。
対象は異なりますが、双方の改革は無関係ではありません。
働きやすい環境を作り、休みを取りやすい風土を根付かせなければ、休み方改革の実現は困難です。
年次有給休暇の基本的なルール
年次有給休暇は、労働者における心身疲労の回復・労働力の維持と、ゆとりある生活の実現を目的に、労働基準法第39条で定められているものです。
ここからは、有休における以下の基本的なルールについて詳しく解説します。
・対象者と付与日数
・出勤率の算定方法
・時季変更権
対象者と付与日数
有休は、以下2つの条件を満たした人に与えられます。
・雇い入れ日から起算して6ヵ月間継続勤務した
・全労働日の8割以上出勤した
雇い入れ日とは一般的に入社日のことを指し、全労働日とは労働契約や就業規則などで労働日と定められた日のことです。
対象は正社員だけではないため、注意が必要です。
契約社員やパートタイム労働者などの区分に関係なく、一定の要件を満たした全労働者が対象になります。
また、以下の通り勤務年数に応じて付与する有休の日数は異なります。
<週の所定労働時間が30時間以上で、所定労働日数が週5日以上、もしくは1年間の所定労働日数が217日以上労働者の付与日数>
<週所定労働日数が4日以下で、週所定労働時間が30時間未満、もしくは1年間の所定労働日数が48日から216日までの労働者の付与日数>
出勤率の算定方法
前述の通り、有休が発生する要件の一つは全労働日における8割以上の出勤です。
出勤率は原則として以下で算出されます。
◆出勤率=出勤日数÷全労働日(暦日数-休日日数)
ただし、休日労働した日や会社都合の休業日などは、原則として「全労働日」から除外する必要があります。
また、業務上の怪我・病気で休んでいる期間や、法律上の育児・介護休業を取得した期間などは、出勤したものとして取り扱わなければなりません。
なお、慶弔休暇などの会社が任意で決めている特別休暇の取得日について、出勤したとするか否かは、会社の定めによります。
時季変更権
基本的に、使用者(会社)は労働者が希望する時季に、有休を与える必要があります。
また、有休を取得した労働者に対し、賃金の減額やその他不利益な取扱いも禁止です。
ただし、請求された時季における有休の付与が事業の正常な運営を妨げるケースでは、他の時季に与えられる「時季変更権」が認められています。
時季変更権は、単に日常的に業務が忙しいことや慢性的な人手では行使できません。
以下などの事情を総合的に判断するとともに「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、かなり限定的であると考えておくべきでしょう。
・事業内容
・企業規模
・労働者の担当業務の内容や業務の繁閑
・代替要因確保の困難さ
働き方改革で定められた年5日の年次有給休暇取得に関するルール
働き方改革関連法が成立し2019年4月1日以降、労働者に年5日の有給休暇を取得させる義務が発生しました。
万が一、取得させなかった場合の罰則も設けられています。
ここからは、以下の働き方改革で定められた年5日の有休取得に関するルールについて詳しく解説します。
・対象者の条件
・時季指定
・年次有給休暇管理簿の作成
・就業規則への記載
・罰則
対象者の条件
年間10日以上の有休が付与される労働者が対象です。
全ての有休付与者ではありませんが、管理監督者や有期雇用の労働者などであっても、年間10日以上有休が付与されていれば対象になります。
時季指定
義務化された年5日の有休は、会社が時季を指定し取得させる必要があります。
指定する場合は、一方的に決めるのではなく労働者の希望や意見を聞き、できる限り労働者の意志を尊重しなければなりません。
会社が指定する前に年5日以上の有休を請求・取得した労働者に対する時季指定は不要で、かつ指定もできません。
また、使用者と労働者の合意により有休の付与時期をあらかじめ定め、計画的に付与する「計画年休」制度の導入で、年5日取得させる方法もあります。
計画年休を利用しても、付与する有休のうち最低5日は労働者が自由に使えるようにしておく必要があり、年休の対象にできるのは5日を超える部分のみです。
また、計画年休を行う場合、事業場ごとに労使協定の締結が必要です。
年次有給休暇管理簿の作成
会社は労働者ごとに、いつ・何日の有休を取得したかの管理が必要です。
労働者ごとに、有休の基準日や取得した時季、日数を記録した有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
なお、管理簿は労働者名簿や賃金台帳と併せた作成も可能です。
必要な際に出力できる仕組みであれば、システムでの管理も問題ありません。
就業規則への記載
会社が時季指定を行う場合は、就業規則に以下などの詳細を明記しなければなりません。
・対象となる従業員の条件や範囲
・時季を指定する方法
罰則
働き方改革関連法にて義務化された内容に違反した場合の罰則も設けられています。
具体的な違反内容と罰則は以下の通りです。
違反内容 | 罰則 |
---|---|
対象者に年5日の有休を取得させなかった | 30万円以下の罰金 |
時季指定を行うにも関わらず、就業規則に記載していない | 30万円以下の罰金 |
労働者の希望する時季に有休を与えない | 30万円以下の罰金 |
なお、対象者に年5日の有休を取得させなかった場合と、労働者の希望する時季に有休を与えない場合は、一人の労働者につき30万円以下の罰金が科せられます。
例えば、対象者5人に年5日の有休を取得させなければ、最大150万円の罰金が科せられます。
年次有給休暇についての注意点
これまで、有給休暇のルールについて紹介してきましたが、注意点も存在します。
ここからは、以下の注意点について詳しく解説します。
・時間単位の年次有給休暇
・有給休暇の取得日
・退職直前における年次有給休暇の消化
・年次有給休暇の買い上げの可否
時間単位の年次有給休暇
有休は1日単位での付与が原則です。
ただ、時間単位の有休に関する以下の事項について労使協定を結べば、5労働日分に限り1時間単位での付与もできます。
1. 対象労働者の範囲
2. 日数
3. 1日の時間数
4. 1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数
3の1日分の有給休暇に対応する時間数は、所定労働時間をもとに定めます。
ただし、1時間未満を単位にはできず、所定労働時間で1時間未満の単位がある場合、労働者の不利益を避けるために時間単位に切り上げる必要があります。
例えば、所定労働時間が7時間30分の場合は8時間になり、8時間×5日=40時間分の時間単位有休になります。
就業規則への記載も求められますが、労使協定を労働基準監督署へ届け出る必要はありません。
なお、時間単位で取得した有休は年5日付与義務の有休対象にならないため、注意が必要です。
有給休暇の取得日
有休は、もともと労働日であった日についての労働を免除するものです。
労働しなくて良い日、つまり休日を有休扱いにすることは認められません。
退職直前における年次有給休暇の消化
退職を予定する労働者が、残りの在籍期間における大半で有休の取得を申し出るケースは少なくありません。
有休は在籍中の労働者に認められた権利で、退職が確定しているからという理由での取得拒否はできません。
しかし、有休消化で業務の引継ぎに支障が出る場合などには、調整を依頼するケースもあるでしょう。
調整を依頼する場合は、会社側が一方的に強制するのではなく、真摯な話し合いによる決定が大切です。
年次有給休暇の買い上げの可否
有休は労働者における心身疲労の回復が目的で、原則として買い上げで日数を減らしたり、請求された日数を与えなかったりした場合、労働基準法39条違反となります。
なお、退職や消滅時効などで使用できないケースにおける残った有休の買い上げは、必ずしも違法とはいえません。
ただし、使用できないケースの買上げが、有休取得の抑制につながらないよう注意が必要です。
まとめ
この記事では、休み方改革の概要や有給休暇の基本ルール、年5日取得の義務化などについて解説しました。
休み方改革とは、有休の取得促進などを目指す取り組みです。
日本の有休取得率は、他の国と比べ高いとはいえません。
心身のリフレッシュによる労働生産性の向上や個人消費の促進を目的に、政府も有休取得率の向上を図っています。
働き方改革関連法で、一定の要件を満たす労働者は年5日の有休取得が義務化され、違反した場合、罰則も設けられました。
時間単位の有休取得制度を導入している企業も多く、今後はより正確な勤怠管理が必要です。
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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実
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