今、注目が集まっている 『副業・兼業』という新たな働き方について

働き方改革 / ワークスタイル多様化


今、注目が集まっている『副業・兼業』という新たな働き方について

 

働き方改革実行計画のテーマのひとつとして掲げられている「柔軟な働き方がしやすい環境整備」。その中に副業・兼業(以下、「副業等」と記載)の推進があります。

厚生労働省が公表している「モデル就業規則」は、今年の1月に副業等を原則として許容し、例外的な場合のみ制限するという内容に改訂されました。

これまでは、このモデル就業規則も含め、ほとんどの企業の就業規則では、副業等を禁止した上で、この違反を懲戒事由としてきたことを考えると、副業等の推進に向けた第一歩を踏み出したと言えるのではないでしょうか。

最近ではこのような流れを受け、徐々に副業等を認める企業が増えてきています。しかし、労働時間の把握や健康管理のルールが不明確であることや、社会保険・労災保険の取扱いなど未整備の課題も残っていることから、なかなか副業等の解禁に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。

今回は、この副業等について、その動向や課題などを取り上げます。

 

副業等の実態

 

副業等に関する実態調査によると、「副業等が認められている」企業は13%、「禁止されている」企業が55%(その他の回答は「分からない」)と、まだ禁止されている企業が多い状況になっています。

副業等を解禁した企業も事情は様々で、働き方改革の一環として企業側が副業等を推進する場合もあれば、労働者からの申出によって解禁に踏み切った、という企業もあります。

 

では、世の中に副業経験者は実際どれくらいいるのか。「副業経験がある」と答えた労働者は全体の32%で、職種としては接客・販売系のアルバイトが圧倒的に多くなっています。

そして、その副業の時間数については、1週あたり「5時間未満」が60%を占めることから、まだ後述するような、副業を行うことによる長時間労働や健康障害の問題はあまり顕在化してきていないようです。

ただ、副業をする際の課題について、多くの労働者は「時間管理」を挙げています。これから副業等を解禁する企業が増えてくれば、時間管理は副業等の上で非常に重要なテーマになってくるでしょう。

(以上、『エン転職』 副業実態調査より)

 

副業等のメリット

 

厚生労働省が公表している、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では労働者・企業における副業等のメリットについてそれぞれ以下のように述べています。

【労働者のメリット】

①離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。

②本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。

③所得が増加する。

④本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。

本業では自身が希望する仕事に就くことが叶わないことも多く、自己実現のために残念ながら結果的に退職に至る、ということもあります。しかし、副業等が認められれば、本業を続けてその収入を得ながら新たなキャリアにチャレンジすることができ、経済的なリスクも最小限に抑えることが可能です。

また、“人生100年時代”においては、第二の人生の準備としても副業等のメリットは大きいのではないでしょうか。

【企業のメリット】

①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。

②労働者の自律性・自主性を促すことができる。

③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。

④労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

企業については、社内では得られない知識やスキル、人脈を本業に取り入れられる、という意味では特に中小企業においてメリットが大きいのではないでしょうか。また、人材不足が叫ばれる中、新たなキャリアを求めて優秀な人材が流出してしまうのを防げる、というのも大きなメリットと言えます。

 

ただし、副業等を行うことにより長時間労働になることや、情報漏洩、競業避止義務違反などについては十分留意することが必要です。

 

改訂されたモデル就業規則の内容

前述した通り、これまで、ほとんどの企業の就業規則においては、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と定めて副業等を禁止した上で、この違反を懲戒事由としており、厚生労働省のモデル就業規則についても同様に規定されていました。

しかし、今回のモデル就業規則の改訂により、以下の通り、副業等が原則として認められることが規定されました。副業等が制限されるのは第3項のように例外的な場合に限るとされています。

 

【モデル就業規則】

(副業・兼業)

第67条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届け出を行うものとする。

3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止または制限することができる。

①労務提供上の支障がある場合

②企業秘密が漏洩する場合

③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④競業により、企業の利益を害する場合

第2項の会社への届出については、事前に企業側が副業等の内容について確認し、許可した場合にのみ認めたり、ただ届出をするだけでよい、とする場合が考えられます。いずれにしても、どんな場合に副業等を禁止するのか、副業等の内容についてはどこまでを確認するのかなど、運用上のルールを事前に整備しておくことが大切です。

尚、第3項1号の「労務提供上の支障がある場合」というのは、本業へのマイナスの影響が出る場合、つまり、長時間労働を余儀なくされる副業等や、本業の所定労働時間と重なっているような副業等が挙げられます。

今回のモデル就業規則の改訂により会社側に副業等を認める義務が課されたわけではありませんが、今後、副業等を希望する労働者が出てくる可能性もありますので、早めに検討されておくのもよろしいのではないでしょうか。

 

企業が対応するべきこと

副業等を推進する上で、企業側が最も懸念するのが、長時間労働ではないでしょうか。

せっかく自社の働き方改革で時間外労働が減り、有休の取得が増えたのに、副業等で長時間労働になり、結果的に労働者が疲弊しているのでは意味がありません。

参考までに海外の副業に関するルールを見てみると、フランスでは、雇用主の数に関わらず、労働時間は原則として1日10時間、週48時間(または12週間の平均で44時間)が上限と定められています。雇用主だけでなく、労働者の側の遵守責任を併せて規定しており、違反した場合に罰金の対象となる場合があるほか、解雇される可能性もあります。

日本では、本業・副業の労働時間については、労働基準法第38条において「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とされていることから、例えば、本業先で8時間勤務した後に副業先で勤務する場合には、副業先での勤務は全て法定時間外労働となります。

これについては、本業・副業の使用者間の不公平感や、副業等による長時間労働のリスクは労働者自身が負うべきものだ、といった様々な議論があります。副業等の実態に即したルールの整備が待たれるところです。

また、労働者の副業等での働き方に関する企業の安全配慮義務についても現時点では明確な法的定めはありませんが、当該労働者が長時間労働や不規則な労働による健康障害を発生させないために留意しておく必要があります。

ただし、本業先が副業先の労働時間を把握する法的義務はなく、その把握も困難であるというのが実情です。まずは何よりも労働者自身が責任を持って副業等の業務量や進捗状況、それらに費やす時間や健康状態を管理すること。そして、企業と労働者とのコミュニケーションも重要な鍵を握ります。副業等の内容を労働者に事前に届出させるルールを徹底し、副業等の開始後も労働時間の実態や健康状態を把握するための取組みを行う必要があるでしょう。

例えば、上司による定期的な面談や、産業医等を活用した健康相談機会の提供、本業・副業の勤務時間の管理が容易になるようなツールの活用が挙げられます。副業先の就業時間はあくまで労働者の自己申告にはなりますが、上司への報告や自身の健康管理の面でも具体的な時間を把握しておくことの意義は大きいと言えるでしょう。

いかがでしたか?「ではウチの会社もすぐに副業を解禁しよう!」というほどハードルの低いものではありませんが、柔軟な働き方を認めることで労働者のスキルアップやモチベーションにプラスの効果があることは期待できます。

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参考:

副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)