勤怠管理で残業削減:残業の事前申請・許可制の成功事例とその効果
時間外労働 / 残業削減
多くの企業が残業削減に取り組んでいますが、思うように進まないとお悩みの企業が多いです。残業が減らない理由は人手不足など多岐に渡りますが、今回は、無駄な残業削減に焦点を絞って施策を紹介します。様々な施策がありますが、残業の事前申請・許可制の導入のコツについてご紹介します。実際、残業の申請方法・許可の仕方を変えただけで、5人の部署で100時間以上の残業削減に成功した事例です。
多くの会社が従業員の労働時間を管理するため、勤怠管理システムを導入していると思います。勤怠システムを導入し勤怠管理を行う理由は何でしょうか?最大の理由は、法律により労働時間の管理が会社に義務付けられているからだと思いますが、労働時間を管理することで無駄な残業を削減したいという理由もあるでしょう。しかし、それが中々うまくいかないというご相談をよく受けます。そこで、今回は、残業削減が進まなかった会社が月100時間(5人の合計)の残業削減に成功した事例をご紹介します。
残業削減には人手不足など様々な原因がありますが、今回は、無駄な残業を減らすという点に絞って解説します。
目次
1.残業削減の必要性(時代的な背景)
現在、残業を削減することが法的にも社会的にも求められていますが、残業の削減は会社にも大きなメリットのあることです。そこで、最初に、残業削減の必要性と残業削減による会社のメリットについて確認します。
1-1残業削減の必要性
長時間の労働は従業員にとって、心身の健康問題を引き起こす可能性があることはわかっています。そして、近年、働き方改革により時間外労働に対する規制が強化されています。月45時間を超える時間外労働を恒常的に行わせることはできません。残業削減の必要性に関しては言うまでもないでしょう。
1-2 残業を削減する会社のメリット
残業が減ることにより残業代も減ります。その人件費を従業員の成果に支給していくことで、長時間働くことよりも、仕事の成果・質を上げることに注力するようになります。また、残業が多い職場は、離職率が高い傾向にあります。残業が減ると従業員の退職率が減り、従業員の満足度が上がっていくことも期待できます。
2.残業削減が進まない理由
残業削減は社会的にも法的にも求められていて、会社にとってもメリットがあるにもかかわらず、残業削減が進まない会社も少なくありません。残業が減らないのには理由があります。そこで、その理由について考えてみたいと思います。残業削減が進まない理由は多岐にわたります。以下、その理由を列挙します。
➀人手不足: 近年、多くの産業で従業員の不足が問題となっています。十分な人員がいない中での業務は、現在の従業員に多くの仕事を強いる形となり、結果として残業が増加します。特に、会社の拡大期には業務量が増える傾向があります。業務量に採用が追い付かないと、1人当たりの残業が増える結果になります。
➁文化や慣習:会社や業界によっては、終業時刻を過ぎても働くことが当たり前の慣習となっていることがあります。長時間働くことが評価されたり、先輩・上司が残業しているため後輩も帰れない状況などもあります。
➂非効率な業務の進め方:従業員の中には、業務の優先順位を誤っているなどの理由で、無駄な時間を費やしている方もいます。また、所定の労働時間内に業務を完了する意識が低いため、だらだらとした残業が発生しています。
➃勤怠管理が適切でない:適切な労働時間の記録や管理がされていないことで、残業時間が実際よりも多く申告される場合があります。
➄生活残業:従業員が経済的な理由から必要以上の残業を行う、いわゆる「生活残業」の問題も存在します。
➅コミュニケーション不足: チーム内でのコミュニケーションが不足すると、必要のない業務を行ってしまうことがあり、これが残業の原因となります。
⑦業務の緊急性: 緊急の案件やトラブル対応など、急を要する業務が突発的に発生すると、所定の労働時間を超える作業が生じます。
以上のように、残業が減らない理由は様々考えられますが、今回のコラムでは無駄な残業を削減するという点に絞って考えてみたいと思います。一般的には、ここで挙げた➁から⑦の残業がそれにあたりますが、⑦の中にも無駄な残業は存在します。
3.無駄な残業を削減する施策の具体例
残業削減を効率的に行うためには様々な取組を各企業で行っていると思います。一般的に、とられている施策(制度の導入)を挙げたいと思います。
➀ノー残業デーの導入: 特定の日を残業を行わない日とし、全員が定時に帰宅する制度のことを言います。
➁タスク管理等ツールの導入: 仕事の進捗や優先度を明確にし、必要な作業に集中できるようにします。他にも、単純作業を自動化ツールで行うことにより、業務効率を向上させることができます。
➂残業の事前申請・許可制:残業を事前に申請させ、会社が必要と認めた場合のみ、残業を許可することで不要な残業を減らします。
➃業務プロセスの見直し: 非効率な業務や無駄な手順を減らし、効率的な作業の流れを確立します。
➄従業員に対する教育:具体的には、業務の効率化を図るための研修や面談の実施などがあります
➅コミュニケーションの促進: 開かれたコミュニケーション環境を作ることで、ミスや誤解等を減少させ、業務効率を改善します。
他にも、法律上の制度の導入などがあります。一番イメージしやすい制度で言うと、フレックスタイム制などがあります。
すべての施策は残業を減らす効果がありますが、今回のコラムでは容易に導入できて効果的な「残業の事前申請・許可制」を取り上げます。
4.残業の「事前申請・許可制」
ところが、残業の事前申請・許可制を導入したにもかかわらず、残業削減の効果を感じられないという悩みの会社は多いです。そこで、今回は、「➂残業の事前申請・許可制」の導入のコツを紹介します。今回ご紹介する方法で、業務のプロセスを見直し、それを従業員と上司で共有し(コミュニケーションの促進の問題も同時に解消され)、かつ、非効率な業務を行っている従業員に対して、勤怠管理を強化しながら、重点的に、定期的な教育も行うことができます。つまり、無駄な残業を削減する施策の➃~➅も同時に行うことができます。実際、5人の部署で月100時間超の残業を削減した実績のある方法です。
4-1 残業の事前申請・許可制とは何か?
ここで、改めて、残業の事前申請・許可制とは何かを簡単に解説します。残業は会社の命令で行わせるのが原則です。しかし、従業員の判断で残業をすることを認める必要もあります。
そこで、残業は従業員に事前に申請させ、会社が許可したものだけを認めるようにします。そうすることで、会社が必要だと判断した残業のみ許可することで、無駄な残業が減ります。
このような制度のことを残業の事前申請・許可制と言います。制度を導入する際には、就業規則に残業の事前申請・許可の手続・ルールを記載し、会社の制度として設けます。就業規則に記載することで会社のルールとなり、場合によっては懲戒処分の対象とすることもできるようになります。
4-2 残業の事前申請・許可制の有効性
従業員の中には残業は従業員の権利だと誤解している方もいます。そこで、残業の事前申請・許可制に反発する方もいますが、残業の事前申請・許可制は問題はありません。労働時間管理の義務は会社にあります。従業員が残業をすれば残業代を支払う義務も生じます。会社が禁止した残業時間に残業代を支払わないといけないのでは理不尽です。ただし、残業の事前申請・許可制のルールが曖昧だとトラブルになりますので、就業規則に手続・ルールを記載し、会社の制度として設けます。
4-3 残業の事前申請・許可制がうまくいかない訳
しかし、前述の通り、この方法を採用しても、期待したほど残業が減らないという会社が非常に多いです。そこで、何が問題なのか詳しくうかがうと、「残業の事前申請・許可のルール」が適切ではないことがほとんどです。残業の事前申請・許可制を採用しても残業が減らない会社の多くが、終業時刻(又は終業時刻間際)になってから、残業の申請をさせています。これでは、残業は思うようには減らないのは当然です。
もし、終業時刻間際に残業の申請をされたら、どうなるでしょうか?確かに、仕事がないのに残業しているような、いわゆる生活残業の問題は解消されるかもしれません。しかし、それ以外に残業の原因がある場合、問題は解消されません。その日に行うべき重要な業務が終わっていなければ、残業を許可せざるを得ないからです。実際、業務終了間際に残業を申請してきた従業員の残業の業務内容をみると、必要な業務が多いです。
4-4 残業の事前申請・許可制の導入のコツ
残業の申請は終業時刻になってからでは遅く、終業時刻の少なくても2時間前までにさせる必要があります。さらに、その時点で「A終業時刻までに行うタスク」と、「B残業して行うタスク」を従業員に書いて提出してもらいましょう。
そのうえで、従業員が書いた内容を上司がチェックします。具体的には、「A終業時刻までに行うタスク」の中に、翌日以降でもかまわないタスク(優先順位が低いタスク)が含まれていないかをチェックします。
もし、そのようなタスクがあれば、翌日以降にさせることにして、「B残業して行うタスク」の中で重要なものを終業時刻までに従業員にやってもらいましょう。そのうえで、残業を許可します。
4-5 残業の事前申請・許可制は上司と従業員で仕事の優先順位のすり合わせをする良い機会です。
この方法で無駄な残業は確実に減ります。無駄な残業の多くは、会社(上司)が考える「無駄な残業」と従業員の考える「無駄な残業」のずれが原因です。そして、それは解消されます。つまり、仕事の優先順位にずれがなくなります。
この優先順位のずれをなくすために、毎朝、その日に行うタスクを優先順位とともに記載させて提出させている会社も多いでしょう。テレワークが普及してから、特に増えたと私は感じています。しかし、その通りには仕事は進みません。なぜなら、毎日、突発的な業務が入ってくるからです。そうなると、つい、緊急ではあるけれど重要ではない業務を優先して行う従業員が出てきます。
したがって、残業の申請をさせる際にも、仕事の優先順位のずれを正す必要があるのですが、それは、終業時刻間際になってからでは遅いのです。
なお、「このような方法は面倒だ」というご意見もいただきますが、全従業員に行う必要はありません。残業を申請してきた従業員のみでかまわないのです。当然、残業が多い従業員であればあるほど、上司との間で優先順位のずれを正す機会が増えます。定期的な教育ができます。
毎日、この方法で優先順位のすり合わせをしていると、上司と部下で考える業務の優先順位が一致してきます。最初は、面倒ですが、徐々に、時間も短くなってきます。コミュニケーションも促進されます。同時に、業務プロセスの見直しも行うことができます。つまり、この方法であれば、無駄な残業を削減する施策の③~➅を同時に行うことが可能になるのです。「やってみて良かった」というご意見を多くいただきます。
4-6 残業削減の成功事例:勤怠管理の改善による100時間以上の削減
私のクライアント企業のある部署(従業員数5人)では、この方法を導入したところ、最終的に月100時間以上の残業を減らすことができたとのことです。内容は会社によって多少変えています(※)が、多くの会社で効果を挙げています。
(※)「終業時刻の少なくても2時間前までに」の部分を「残業をすることが確実となった段階で」と変えたり、タスクに想定される時間を書かせたりしている会社もあります。各タスクに想定される時間を記入するには、業務の進め方や手順を可視化する必要があります。上司もチェックすることができ、業務のプロセスを見直すことにつながります。
全てに当てはまることですが、制度を導入するだけでは効果がなく、コツやノウハウがあるのです。残業削減も同じで、少しの工夫で減らすことができるのです。
最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。