【初心者向け】管理会計とは?実施する目的やメリット、財務会計との違い


はじめに
「うちの会社、売上は伸びているのに、なぜか利益が出ない…」「どの部門が儲かっているのか、実はよくわからない」こんな悩みを抱えている経営者や管理職の方は多いのではないでしょうか。
実は、このような経営の悩みを解決する強力なツールが「管理会計」です。管理会計は、会社の経営状態を詳しく分析し、より良い経営判断を下すための重要な手法。しかし、「会計」という言葉を聞くと、難しそうに感じてしまう方も多いはず。
この記事では、管理会計について初心者の方にもわかりやすく解説します。管理会計とは何か、なぜ必要なのか、財務会計とはどう違うのか、そして実際にどのように活用すればよいのかを、具体例を交えながらご紹介していきます。

目次

管理会計って何?経営に役立つ「社内向けの会計」

管理会計という言葉を初めて聞く方も多いかもしれません。簡単に言えば、管理会計は「経営者や管理職が、会社をより良く運営するための情報を集めて整理する仕組み」です。
従業員の健康管理に健康診断があるように、会社の経営にも定期的な診断が必要です。管理会計は、まさに会社の健康診断のような役割を果たしています。

会社の健康診断のような役割を持つ管理会計

人間の健康診断では、血圧や血糖値など様々な数値をチェックして、体の状態を把握します。同じように、管理会計では会社の様々な数値をチェックして、経営の健康状態を把握するのです。
例えば、ある飲食店チェーンの経営者が「最近、全体の売上は上がっているけど、利益があまり増えていない」と感じたとします。管理会計を使えば、店舗ごとの売上や原価率、人件費の推移などを細かく分析できます。
その結果、「A店舗は売上が好調だが、B店舗は原価率が高すぎる」「新メニューの材料費が予想以上にかかっている」といった具体的な問題点が見えてきます。これらの情報があれば、B店舗の仕入れ方法を見直したり、メニューの価格設定を調整したりといった、的確な対策を打つことができるのです。
管理会計は、経営の現状を数字で「見える化」し、問題の早期発見と解決を可能にする、まさに会社の健康診断なのです。

なぜ多くの企業が管理会計を取り入れているのか

管理会計の実施は法律で義務付けられているわけではないにも関わらず、多くの企業が管理会計を導入している理由は何でしょうか。
最大の理由は、経営環境の変化が激しい現代において、スピーディーな経営判断が求められているからです。例えば、コロナ禍では多くの企業が急激な環境変化に直面し、飲食業界では、店内飲食からテイクアウトやデリバリーへのシフトが急速に進みました。このような状況で、「どの事業が利益を生んでいるか」「どこにコストがかかりすぎているか」を素早く把握できた企業は、迅速に事業転換を図ることができました。
また、企業の規模が大きくなればなるほど、全体像を把握することが難しくなります。社長が全ての現場を見て回ることは現実的ではありません。管理会計があれば、数字を通じて各部門の状況を把握し、適切な指示を出すことができるのです。
さらに、管理会計は従業員のモチベーション向上にも役立ちます。各部門や個人の成果が数字で明確になることで、公正な評価が可能になり、目標達成への意欲も高まります。このように、管理会計は単なる数字の集計ではなく、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現するための重要な経営ツールなのです。

管理会計と財務会計、何が違うの?初心者もわかる5つのポイント

会計と聞くと、多くの方が思い浮かべるのは「財務会計」かもしれません。決算書や税務申告などがこれにあたります。では、管理会計と財務会計はどのように違うのでしょうか。
実は、この2つの会計は目的も方法も大きく異なります。ここでは、その違いを5つのポイントに分けて、わかりやすく解説していきます。

1. 誰のための会計か?社内向けと社外向けの違い

最も大きな違いは、「誰のために作るか」という点です。財務会計は「社外向け」の会計です。株主、銀行、取引先、税務署など、会社の外部の人たちに向けて、会社の財務状況を報告するために作られます。
一方、管理会計は「社内向け」の会計です。社長、役員、各部門の責任者など、会社の中の人たちが経営判断をするために使います。例えるなら、財務会計は会社の「外向けの顔」、管理会計は「内向けの顔」といえるでしょう。人間でも、外出時の服装と家でくつろぐときの服装が違うように、会計も目的によって異なる顔を持っているのです。

2. 実施は義務?任意?法的な違いを理解しよう

財務会計は、すべての会社に法律で義務付けられています。決算書を作成し、税務申告を行うことは、会社の法的な責任です。しかし、管理会計は完全に任意です。実施するかしないか、どのような方法で行うかは、それぞれの会社の自由です。
ただし、任意だからといって重要でないわけではありません。むしろ、義務ではないにも関わらず多くの企業が導入しているという事実が、管理会計の重要性を物語っています。

3. いつの情報を扱う?過去と未来の視点の違い

財務会計は主に「過去」の情報を扱います。前年度の売上はいくらだったか、利益はどれだけ出たか、といった実績を記録し報告します。対して、管理会計は「過去」だけでなく「現在」そして「未来」の情報も扱います。今月の売上目標に対する進捗はどうか、来期の予算はどう設定すべきか、といった将来の計画も含まれます。
車の運転に例えると、財務会計はバックミラー(過去を見る)、管理会計はフロントガラスとカーナビ(現在と未来を見る)のような役割といえるでしょう。

4. どんな形式で作る?自由度の違いを知ろう

財務会計の書類は、法律や会計基準によって厳格に形式が決められています。貸借対照表、損益計算書など、どの会社も同じ形式で作成しなければなりません。
一方、管理会計の資料は完全に自由です。エクセルの表でも、グラフでも、独自のレポート形式でも構いません。大切なのは、経営判断に役立つ情報が含まれているかどうかです。

5. 集計の単位は?金額だけじゃない管理会計の特徴

財務会計では、すべてを「円」という金額で表現します。売上も費用も資産も、すべて金額に換算して記録します。しかし、管理会計では金額以外の単位も使います。製造業なら生産個数や稼働率、サービス業なら顧客数や満足度など、業種や目的に応じて様々な指標を使います。
例えば、美容院の管理会計では、売上金額だけでなく、来店客数、リピート率、スタッフ一人あたりの施術時間なども重要な管理指標となります。

管理会計を始める3つのメリット|経営がうまくいく理由

管理会計を導入すると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、実際に管理会計を活用している企業が実感している3つの大きなメリットをご紹介します。

メリット1:経営状況が「見える化」され、素早い判断ができる

管理会計の最大のメリットは、経営状況の「見える化」です。多くの中小企業では、社長の頭の中だけで経営状況を把握していることがあります。「なんとなく儲かっている」「最近調子が悪い」といった感覚的な把握です。しかし、これでは正確な判断は難しく、対応も遅れがちになります。
管理会計を導入すると、経営状況が具体的な数字で表されます。例えば、ある製造業の会社では、管理会計を導入したことで「製品Aの利益率が予想より10%低い」ことが判明しました。詳しく分析すると、特定の工程で不良品が多く発生していることがわかり、すぐに改善策を実施。結果として、3ヶ月後には利益率を15%改善することができました。
もし管理会計がなければ、この問題に気づくのはもっと遅くなり、その間の損失は膨大なものになっていたでしょう。管理会計による「見える化」は、問題の早期発見と迅速な対応を可能にし、経営の安定性を大きく向上させるのです。

メリット2:無駄なコストを発見!効率的な経営ができる

2つ目のメリットは、コストの無駄を発見し、効率的な経営ができることです。企業のコストは、気づかないうちに膨らんでいることがよくあります。「昔からこうしているから」「みんなやっているから」という理由で、実は無駄なコストをかけ続けていることも少なくありません。
管理会計では、コストを細かく分析することで、このような無駄を発見できます。ある小売業の会社の例を見てみましょう。管理会計で在庫コストを詳しく分析したところ、特定の商品群で過剰在庫が常態化していることがわかりました。さらに調査すると、その商品は年に2回しか売れない季節商品なのに、通年で在庫を抱えていたのです。
この発見により、仕入れタイミングを見直し、在庫管理方法を改善。結果として、年間で500万円のコスト削減に成功しました。

メリット3:部門ごとの成果がわかり、適切な評価ができる

3つ目のメリットは、各部門や個人の成果を正確に把握し、適切な評価ができることです。従業員のモチベーションを維持するためには、公正な評価が欠かせません。しかし、感覚的な評価では不公平感が生まれやすく、優秀な人材の流出にもつながりかねません。
管理会計を使えば、各部門の売上、利益貢献度、生産性などを数値で明確に示すことができます。例えば、あるIT企業では、管理会計を導入して部門別の収益性を分析しました。その結果、地味で目立たない保守サービス部門が、実は会社の利益の40%を生み出していることが判明。この事実をもとに、保守サービス部門の待遇を改善し、さらなる強化を図ることができました。
また、営業部門では個人別の売上だけでなく、利益率や新規開拓数なども評価指標に加えることで、より総合的な評価が可能になりました。

管理会計で行う4つの基本業務|具体的に何をするの?

管理会計といっても、具体的に何をすればよいのでしょうか。ここでは、多くの企業で実施されている4つの基本的な管理会計業務について解説します。

予算管理:目標を立てて、実績と比べる

予算管理は、管理会計の中でも最も基本的で重要な業務です。簡単に言えば、「目標を立てて、実際の結果と比較する」ことです。家計簿をつけている方なら、毎月の支出目標を立てて、実際の支出と比較した経験があるでしょう。企業の予算管理も、基本的な考え方は同じです。
ただし、企業の場合はより詳細で体系的に行います。売上予算、原価予算、経費予算など、様々な項目で予算を設定し、月次や四半期ごとに実績と比較します。例えば、ある飲食店では月間売上目標を1,000万円と設定しました。月の半ばで実績をチェックしたところ、進捗率が40%と目標を下回っていることが判明。すぐに原因を分析し、週末の集客キャンペーンを実施することで、最終的に目標を達成することができました。
予算管理のポイントは、単に目標を立てるだけでなく、定期的に進捗をチェックし、必要に応じて軌道修正することです。

原価管理:商品やサービスにかかるコストを把握する

原価管理は、製品やサービスを提供するのにかかるコストを正確に把握し、管理する業務です。「この商品を1個作るのに、実際いくらかかっているのか?」という質問に、正確に答えられる経営者は意外と少ないものです。材料費だけでなく、人件費、設備費、光熱費なども含めた本当のコストを知ることが、原価管理の第一歩です。
ある菓子製造業の例を見てみましょう。人気商品のケーキの販売価格は500円でしたが、原価管理を詳しく行ったところ、実際の原価は450円もかかっていることが判明しました。利益率わずか10%では、少しの売上減少で赤字になってしまいます。
そこで、製造工程を見直し、材料の仕入れ先を変更することで、原価を350円まで下げることに成功。利益率を30%に改善し、経営の安定性を大きく向上させました。

経営分析:数字から会社の強みと弱みを見つける

経営分析は、様々な経営指標を使って会社の状態を診断する業務です。健康診断で様々な検査項目があるように、経営分析にも多くの分析指標があります。売上高営業利益率、自己資本比率、在庫回転率など、それぞれの指標が会社の異なる側面を表しています。
重要なのは、単に数字を計算するだけでなく、そこから何を読み取るかです。例えば、在庫回転率が低い場合、それは「在庫が多すぎる」というシグナルかもしれません。逆に高すぎる場合は「品切れリスクがある」という警告かもしれません。業界平均や過去の実績と比較しながら、自社の強みと弱みを見つけていきます。

資金繰り管理:お金の流れを把握して安心経営

資金繰り管理は、会社の現金の流れを管理する業務です。「黒字倒産」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。帳簿上は利益が出ているのに、手元の現金が不足して倒産してしまうことです。これを防ぐのが資金繰り管理の役割です。
売上があっても、実際に現金が入ってくるまでにはタイムラグがあります。一方で、仕入れや給料の支払いは待ってくれません。このギャップを管理し、常に必要な現金を確保しておくことが重要です。
ある建設業の会社では、大型案件の受注に成功しましたが、完成まで6ヶ月、入金はさらに2ヶ月後という条件でした。資金繰り管理をしっかり行っていたおかげで、この期間の資金不足を予測し、事前に銀行から運転資金を調達することができました。

管理会計を始めるときの注意点|失敗しないためのポイント

管理会計は経営に多くのメリットをもたらしますが、導入の仕方を間違えると、かえって負担になることもあります。ここでは、管理会計を成功させるための重要なポイントを解説します。

現場の負担を考慮した導入計画を立てよう

管理会計を導入する際の最大の課題は、現場の負担増加です。データの収集、入力、集計など、新たな業務が発生します。いきなり完璧な管理会計システムを導入しようとすると、現場が混乱し、本来の業務に支障が出ることもあります。
成功のコツは、段階的な導入です。ある製造業の会社では、最初は売上と仕入れだけの簡単な管理から始めました。3ヶ月後、現場が慣れてきたところで在庫管理を追加。さらに半年後に部門別損益管理を導入するという具合に、少しずつ範囲を広げていきました。
また、繁忙期を避けて導入することも重要です。決算期や年末商戦の時期に新しいシステムを導入すると、現場の反発を招きやすくなります。

自社に合った管理方法を選ぶことが大切

管理会計に「正解」はありません。業種、規模、経営方針によって、最適な管理方法は異なります。例えば、飲食業なら日次の売上管理が重要ですが、建設業なら工事別の原価管理が中心になるでしょう。他社の成功事例をそのまま真似するのではなく、自社の特性に合わせてカスタマイズすることが大切です。
また、管理する項目を欲張りすぎないことも重要です。「あれもこれも管理したい」と思う気持ちはわかりますが、管理項目が多すぎると、かえって重要な情報が埋もれてしまいます。まずは本当に重要な指標を3~5個程度に絞り、それらをしっかり管理することから始めましょう。

継続的な運用のための体制づくり

管理会計は、導入して終わりではありません。継続的に運用し、改善していくことで初めて効果を発揮します。そのためには、責任者を明確にし、定期的な見直しの仕組みを作ることが重要です。
ある小売業の会社では、「管理会計推進チーム」を作り、月1回の定例会議を開催しています。この会議では、管理会計の結果を共有するだけでなく、「この指標は本当に必要か」「もっと効率的な集計方法はないか」といった改善提案も話し合います。
また、管理会計の結果を経営に活かす仕組みも重要です。せっかく分析しても、それが経営判断に使われなければ意味がありません。経営会議で必ず管理会計の報告時間を設けるなど、活用する場を作ることが大切です。

まとめ:管理会計は経営の羅針盤|今すぐ始められる第一歩

ここまで、管理会計について詳しく解説してきました。管理会計は、社内の経営者や管理職が意思決定をするための「社内向けの会計」であり、財務会計とは目的も方法も大きく異なることがお分かりいただけたと思います。
管理会計を導入することで、経営状況の「見える化」、無駄なコストの発見、適切な評価制度の構築など、様々なメリットが得られます。予算管理、原価管理、経営分析、資金繰り管理といった基本業務を通じて、経営判断の質とスピードを大きく向上させることができるでしょう。
もちろん、導入にあたっては現場の負担への配慮や、自社に合った方法の選択、継続的な運用体制の構築など、注意すべき点もあります。しかし、これらのポイントを押さえて段階的に導入すれば、管理会計は必ずあなたの経営の強力な味方となるはずです。
まずは身近なところから、例えば売上や経費の推移を記録することから始めてみてはいかがでしょうか。完璧を求めず、小さな一歩から始めることが、管理会計成功への近道です。

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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実