育児介護休業法とは|改正内容や企業側で知っておきたいポイント、対応方法まとめ

働き方改革


育児介護休業法は、育児や介護を行う労働者が仕事と家庭を両立できるよう支援する法律です。2022年以降、男性の育児休業取得促進や介護離職防止を目的とした法改正が段階的に施行されており、2025年4月と10月にも大幅な改正が実施されました。

企業にとって法改正への対応は、法令遵守はもちろん、人材確保や企業価値向上にも直結する課題です。本記事では、改正内容を整理し、企業が取るべき実務対応のポイントをまとめます。

育児介護休業法の基礎知識

育児介護休業法は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」が正式名称で、働く人が育児や介護のために離職せずに済む環境整備を目的としています。企業には制度を整備し、従業員が利用できる環境を作る責任があります。

法律の目的と企業に求められる義務

育児介護休業法が定める主な制度には、育児休業(子が1歳になるまでの休業)、介護休業(家族1人につき通算93日まで取得可能)、子の看護等休暇や介護休暇(対象が1名の場合は年5日、対象者が2名以上の場合は年10日まで取得できる休暇)、短時間勤務制度、残業免除制度などがあります。

企業はこれらの制度を就業規則に組み込み、従業員が利用できるようにする義務があります。制度利用を理由とした解雇や降格などの不利益な取り扱いは禁止されています。また、報告拒否や虚偽報告を行った場合は行政指導や企業名公表、最大20万円の過料が科される可能性があります。2022年以降の改正では、企業側から従業員へ積極的に制度を案内し、取得意向を確認することが義務化されました。

相次ぐ法改正の背景

法改正の背景には、少子高齢化に伴う労働力不足があります。男性の育児休業取得率は2020年時点で12.65%でしたが、2021年の法改正により「産後パパ育休」などの新制度が導入された結果、2024年度には40.5%まで急上昇しました。

介護を理由とした離職も深刻です。毎年10万人以上が家族の介護・看護を理由に仕事を辞めており、2023年度は10万4千人と過去最多を更新しました。特に働き盛りの40~50代が8割近くを占めています。

出典:厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r06.html

こうした状況を受け、2024年には育児介護休業法の改正法が成立し、2025年4月と10月に段階的に施行されました。

育児休業制度の主な改正内容

育児休業制度については、2022年の大幅改正以降も継続的に拡充が図られています。男性の育児参加促進と子育て世代の柔軟な働き方支援が改正の中心テーマです。特に注目すべきは、産後パパ育休の創設と育児休業の分割取得可能化です。

産後パパ育休(出生時育児休業)の新設

2022年10月に施行された産後パパ育休は、父親が子の出生直後に集中的に育児に関われるよう新設された制度です。子の出生後8週間以内に最大4週間(28日間)まで取得でき、2回に分割することも可能です。通常の育児休業とは別枠で取得でき、申出期限も原則2週間前と短く設定されています。

休業期間中は雇用保険から育児休業給付金として、休業開始時賃金日額の67%相当が支給されます。厚生労働省の調査では、育児休業を取得した男性の6割以上が産後パパ育休を利用しており、短期でも父親が育児に参加する機会を作ることが、男性の育休取得率向上に寄与しています。

育児休業の分割取得

育児休業は従来、原則として1回しか取得できませんでしたが、2022年10月の改正により、最大2回まで分割して取得できるようになりました。生後6か月の時点で一度職場復帰し、その後子が1歳になる前に再び育休を取得するといった柔軟な計画が立てられます。

分割取得した各回の育休は、それぞれ育児休業給付金の対象となります。また、夫婦ともに育児休業を取得する場合には「パパ・ママ育休プラス」制度により、子が1歳2か月に達するまで育休期間を延長できます。企業は就業規則に「育児休業は2回まで分割して取得できる」旨を明記しておくと良いでしょう。

子の看護等休暇の拡充|小学3年生まで対象拡大

2025年4月から、子の看護等休暇制度が大幅に拡充されました。従来は小学校就学前までの子が対象でしたが、改正後は小学校3年生修了時までに引き上げられています。取得事由も拡大され、感染症による学級閉鎖や出席停止の場合、入園式・入学式・卒園式への参加も認められるようになりました。

また、労使協定による「勤続6か月未満の労働者」の除外規定も撤廃されたため、入社直後の従業員でも取得可能です。取得日数は年5日(子が2人以上なら年10日)です。小学校低学年の子どもは感染症にかかりやすく、学級閉鎖も頻繁に発生するため、保護者は仕事と育児の両立がしやすくなっています。

有期雇用労働者の取得要件緩和

契約社員やパートタイマーなど有期雇用労働者の育児休業・介護休業取得要件も大幅に緩和されています。2022年4月の改正で、従来必要とされていた「引き続き1年以上雇用されていること」という要件が撤廃されました。

さらに2025年4月からは、子の看護等休暇や介護休暇に関して、労使協定において「勤続6か月未満の労働者」を対象外とする規定も削除されました。入社して間もない従業員が妊娠・出産した場合や、突然家族の介護が必要になった場合でも、制度を利用できる道が開かれています。

介護休業制度の主な改正内容

介護を理由とした離職が年間10万人を超える中、介護休業制度の拡充と利用促進が急務です。2025年4月に施行された改正では、介護休業・介護休暇の取得要件緩和に加えて、企業に対する雇用環境整備義務や個別の情報提供・意向確認義務が新設されました。

介護休業・介護休暇の取得要件緩和

介護休業は、要介護状態にある家族1人につき通算93日まで取得できる長期の休業制度で、最大3回に分割可能です。休業期間中は雇用保険から介護休業給付金として、賃金の約67%相当が支給されます。介護休暇は、要介護家族の介護や世話のために年5日(家族2人以上なら年10日)取得できる休暇制度です。

これらの制度について、2022年4月の改正で労使協定において除外できる「継続雇用1年以上」要件が撤廃されました。さらに2025年4月からは、「勤続6か月未満」除外規定も廃止されています。介護は予期せぬタイミングで始まることが多く、入社間もない従業員でも突然対応が必要になるケースがあるため、要件緩和により利用しやすい環境が整備されました。

介護のための柔軟な勤務制度

2025年4月から、すべての事業主に対して「介護離職防止のための雇用環境整備」と「介護に直面した従業員への個別の制度周知・意向確認」が義務付けられました。企業は介護休業や短時間勤務制度、フレックスタイム制度などの両立支援制度を従業員に個別に説明し、希望を聞き取ることが求められています。

また、介護を行う労働者に対するテレワークの導入も、事業主の努力義務として追加されました。在宅勤務により、自宅で介護しながらリモートで業務を続けられれば、通勤や長時間拘束の負担を軽減できます。既存の制度として、介護中の社員には残業制限や深夜業の制限、短時間勤務制度などが認められており、これらを組み合わせて柔軟に運用することが求められています。そして事業主には、従業員が40歳に達する年度(その前後の適切な時期)に、介護と仕事の両立支援制度・相談窓口・給付金等の情報を提供する義務があることも追加されました。

柔軟な働き方に関する改正内容

育児や介護と仕事を両立するには、休業制度だけでなく日常的な働き方の柔軟性が欠かせません。2025年の改正では、残業免除の対象年齢拡大、短時間勤務制度へのテレワーク追加、3歳から就学前の子を持つ労働者への柔軟な働き方制度導入義務など、働く時間や場所の選択肢を広げる施策が実施されました。

残業免除の対象拡大|3歳未満から就学前まで

2025年4月から、所定外労働(残業)の免除を請求できる範囲が、「3歳未満」から「小学校就学の始期に達するまで」に拡大されました。労働者が請求した場合、事業主は原則として拒否できません。(事業の正常な運営を妨げる場合は、請求を拒むことができます。)就業規則の対象範囲も就学前までに拡張しておきましょう。

短時間勤務制度の見直しとテレワークの追加

3歳未満の子を養育する労働者については、1日おおむね6時間の短時間勤務等のいずれかの措置が義務です。2025年4月からは、この短時間勤務の「代替措置」に「テレワークの利用」が追加され、短時間勤務が難しい業務でも在宅勤務等を整備すれば義務を満たせるようになりました(※代替措置としてのテレワークに日数等の数値要件はありません)。必要に応じて就業規則やテレワーク規程へ明記をしましょう。

3歳~就学前の子を持つ労働者への柔軟な働き方制度

2025年10月から事業主は、次の5つのうち少なくとも2つ以上を選んで講じ、労働者が選択して利用できるようにする義務があります。

1.始業・終業時刻の変更(時差出勤)
2.テレワーク等(月10日以上・原則時間単位で利用可能な在宅勤務制度)
3.保育施設の設置・運営等(社内託児・費用補助等を含む)
4.養育両立支援休暇の付与(年10日以上の子育て目的の特別休暇)
5.短時間勤務制度

施行に合わせ、就業規則・社内規程へ明文化し、過半数組合等からの意見聴取も実施してください。

企業が取るべき具体的な対応方法

法改正への対応は、就業規則の改定だけでは不十分です。制度を実際に機能させるための社内体制整備、従業員への周知徹底、ハラスメント防止対策など、総合的な取り組みが求められます。すでに施行された改正内容について、未対応の企業は早急な対応が必要です。

就業規則の見直しと改定ポイント

今回の法改正を受け、企業は就業規則や社内規程を最新の内容に更新する必要があります。改定が必要な主な項目として、育児休業制度では産後パパ育休の新設、分割取得2回までの明記があります。子の看護等休暇では対象年齢を小学校3年生修了前まで変更し、学級閉鎖や入学式等も取得理由に含めます。

子の看護等休暇・介護休暇では、勤続6か月未満除外の廃止を行います。残業の制限については対象を就学前まで拡大し、短時間勤務制度には代替措置としてテレワークを追加します。新設された柔軟な働き方措置(3歳~就学前)については、新たな条項を設けることが求められています。未対応の企業は速やかに改定と労基署への届出を完了させましょう。

従業員への制度周知と相談体制の構築

制度を整備しても、従業員がその存在や利用方法を知らなければ効果がありません。改正内容に関する情報提供を積極的に行うことが大切です。個別周知の実施が特に重要になります。妊娠の報告を受けたら速やかに育児休業制度や産後パパ育休を案内し、面談で意向を確認します。

全従業員への一般的な周知も欠かせません。社内報やイントラネット、説明会などを活用して、法改正で何が変わったのかを伝えます。相談体制の構築として、人事部内に「育児・介護両立支援相談窓口」を設置し、メールや電話で問い合わせを受け付けることが有効です。経営層から「仕事と家庭の両立を会社として応援する」と発信してもらうことで、従業員は制度を利用しやすくなります。

人員配置計画とハラスメント防止対策

休業者や時短勤務者が出ても業務が回るような計画を立てることが大切です。育休・介休取得者の担当業務をチーム内で複数人が対応できるようにしておく、業務の標準化や引き継ぎ資料の整備を進める、といった対応が考えられます。

ハラスメント防止対策は企業の法的義務です。就業規則にハラスメント禁止規定を設け、管理職研修で事例を交えて周知啓発することが推奨されます。「育児休業を取得した社員に対し『迷惑だ』『昇進に響くぞ』などと言う行為はハラスメントに該当し懲戒の対象となる」といった内容を明示します。経営トップから繰り返しメッセージを発信し、「お互い様精神」で協力し合う職場風土を育てることが、休業取得率向上と従業員のモチベーション向上につながります。

両立支援等助成金の活用と今後の対応

育児・介護と仕事の両立支援に取り組む企業に対して、厚生労働省は「両立支援等助成金」を設けています。代表的なコースに「育児休業等支援コース」と「介護離職防止支援コース」があります。育児休業等支援コースでは、男性社員に育児休業を取得させ職場復帰まで継続就業させた企業に助成金が支給されます。

2025年4月と10月の改正内容はすでに施行されており、未対応の企業は速やかに就業規則の改定と労基署への届出を完了させる必要があります。また、2025年4月からは従業員301~1000人規模企業への育児休業取得状況公表義務が適用開始されるため、該当企業は準備が必要です。早めの対応が肝心であり、社内プロジェクトとして体制整備を進めることをお勧めします。

法改正への対応が企業成長につながる理由

育児介護休業法への適切な対応は、単なる法令遵守ではなく、企業の持続的成長を支える経営戦略です。人材確保が困難になる中、両立支援制度の充実は採用力強化と人材定着の決め手となります。

人材確保・定着効果と企業価値の向上

育児休業や介護休業をしっかり取得させている企業姿勢は、「従業員を大切にしている」「柔軟な働き方ができる会社」という印象を社会に与えます。特に男性社員の育休取得が進んでいる会社は、若い優秀な人材に選ばれやすくなります。近年はSDGs達成度やESGへの取り組みが投資家からも注目されており、男性育休取得率の高さなどが企業評価の指標になるといわれています。

少子高齢化により多くの業界で人材確保が難しくなる中、家庭と仕事を両立しやすい制度を整えた企業は求職者にとって魅力的です。求人票に「育児休業取得実績あり」「フレックス・テレワーク制度あり」と明記している企業は、応募数や内定承諾率の向上につながる傾向があります。在籍する従業員のモチベーション向上や定着率改善効果も見込まれ、多様な人材が長く働けるようになります。

持続可能な成長を実現する両立支援の考え方

企業が持続的に成長していくためには、従業員が長期にわたって安心して働ける環境づくりが不可欠です。仕事と家庭の両立支援を充実させることは、企業のサステナビリティ戦略の土台といえます。従業員がライフイベントで離職しないようにすることは、企業に蓄積された技能や知見を守ることにつながります。

両立支援の推進は組織力向上にも寄与します。育児や介護をきっかけに職場で助け合う風土が醸成されると、チーム内で業務共有が進み属人化が解消されます。多様な働き方が許容される環境では、従業員は自分に合ったペースで働けるため、パフォーマンスを最大化しやすくなります。企業が両立支援に本気で取り組むことは、自社のためだけでなく社会の持続可能性にも貢献する活動です。単に法律に従うだけでなく、そこから得られるプラス効果を享受できるよう前向きに取り組みましょう。

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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実