今後、監督指導が強化される!?裁量労働制の適正運用を確認
勤怠管理
先日、裁量労働制について、厚生労働省が、適正に運用されているかを調べるため、全国のおよそ1万3,000の事業所を対象に、自主点検を求めることになった、との報道がありました。厚生労働大臣は本件に関する会見の中で次のように述べています。
“今回、裁量労働制という制度を正しく理解して適正に実施していくために、指導を徹底していくよう、法律が遵守されているかについてチェックを行っていく。手順としては、まず自主点検表をそれぞれの事業主に送って、チェックしてもらった結果を労働基準監督署に報告してもらう。今後そうした報告内容を労働基準監督署で確認した上で、必要に応じた監督指導等を行っていく。”とのことです。
詳細はまた後ほど記載しますが、裁量労働制は決められた業務にしか適用されません。当然、なんとなく「専門性が必要な業務だから」という理由で裁量労働制の対象とすることはできないわけです。
分かり易い例を挙げるならば、システムエンジニアでしょうか。プログラマーが対象とならないのは言うまでもありませんが、システムエンジニアでもすべての人がこの裁量労働制の対象となるわけではありませんので注意が必要です。
働き方改革関連法案の中に裁量労働制の拡大というテーマもあることから注目度も高く、冒頭で述べた通り、今後はこの制度に対する監督指導が強化されていくようですので、監督指導を受けることのないよう、適正な運用を心がけたいですね。前置きが長くなりましたが、今回はそんな流れからこの裁量労働制をテーマに取り上げたいと思います。
目次
裁量労働制とは
裁量労働制とは、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、その業務遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をすることが困難な業務について、労使協定または労使委員会の決議によって決められた時間を労働したものとみなす制度です。この制度には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の二つがあります。
ここでのポイントの一つ目は「その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる」という点にあります。つまり先の例でいうと例えばシステムエンジニア全員に専門業務型裁量労働制が適用できるかというと、待ったがかかるわけです。それはなぜか?新卒1~2年の若手社員が使用者からの具体的な指示を受けずに自身の裁量で業務の遂行ができるかというと、それは一般的には難しいですから、つまり対象者は専門能力や経験が十分な者に限られてくるというわけです。
また、二つ目のポイントは「労使協定または労使委員会の決議によって決められた時間を労働したものとみなす」ということです。このように決められた「みなし労働時間」が例えば8時間であれば、その日に12時間働いていたとしても、あるいは5時間しか働いていなかったとしても、8時間働いたものとして扱われることになるのです。
では、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」それぞれの制度について内容を確認してみましょう。
専門業務型裁量労働制の概要
専門業務型裁量労働制については次の19業務に限定されています。
①新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
②情報処理システムの分析または設計の業務
③新聞・出版の記事の取材・編集、放送番組制作のための取材・編集の業務
④衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
⑤放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
⑥コピーライターの業務
⑦システムコンサルタントの業務
⑧インテリアコーディネーターの業務
⑨ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
⑩証券アナリストの業務
⑪金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
⑫大学における教授研究の業務
⑬公認会計士の業務
⑭弁護士の業務
⑮建築士の業務
⑯不動産鑑定士の業務
⑰弁理士の業務
⑱税理士の業務
⑲中小企業診断士の業務
これらを見てお分かりいただける通り、いずれも専門的でクリエイティブな仕事のため、時間に比例して成果が生み出されるというものではなく、個々の労働者のスタイルによって進め方も変わってくるという業務になっています。
専門業務型裁量労働制のメリット
専門業務型裁量労働制の最大のメリットはやはり、労働時間に対する自由度が高いということでしょう。出社時間や働く時間帯、休憩の時間帯についても労働者の裁量で自由に決められますので、仕事の進捗度合いやライフスタイルに合わせて自分のペースで仕事を進めることができます。また、会社側としても実労働時間によって賃金が変動しないため、人件費の見込みが立てやすいというメリットがあります。
専門業務型裁量労働制の導入と運用
専門業務型裁量労働制の導入にあたっては、就業規則への規定と労使協定の締結、そしてそれらの労働基準監督署への届出が必要となります。労使協定には様々なことを定めるわけですが、その中で最も重要で難しいのが「みなし労働時間」の決定になります。決定にあたっては、対象業務に実際に従事している労働者の労働時間の実態を反映させる必要がありますので、これらの労働者への実態調査やヒアリングが不可欠といえるでしょう。
また、未払い残業代の発生にも注意が必要です。例えば、みなし労働時間を9時間に設定するなど、法定労働時間を超える時間を設定する場合には、36協定の締結が必要であると同時に時間外の割増賃金を支払う必要があります。
なお、専門業務型裁量労働制を導入する場合には、健康・福祉確保措置をあわせて導入することが義務付けられています。裁量労働制の対象者については、労働基準法上の労働時間の把握義務は免れているとはいえ、この健康・福祉確保措置を講じる上では労働者の勤務状況を把握することが不可欠です。そのため、結局は、裁量労働制の対象者についても勤怠管理システムなどの客観的な管理ツールを用いることにより、在社時間を把握することが必要になるのです。
では、次に企画業務型裁量労働制について見てみましょう。専門業務型裁量労働制と重複する部分を除いてポイントを取り上げます。
企画業務型裁量労働制の概要
企画業務型裁量労働制の対象となる業務は、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務」です。そして、その対象者は、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」に限定されています。よって、専門業務型裁量労働制の対象者と同様、その業務についていれば全員が対象となるわけではなく、それなりの知識や経験を持つ労働者のみが対象になります。参考までに、厚生労働省の告示では、学卒3~5年の職務経験を要求しています。
この企画業務型裁量労働制については、「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」が対象業務として追加されるか、今国会での働き方改革関連法案の審議事項の一つとして注目されています。
企画業務型裁量労働制のメリット
企画業務型裁量労働制のメリットは専門業務型裁量労働制と同じで、労働時間に対する自由度が高いことと、人件費の見込みが立てやすいという会社側のメリットもあります。
企画業務型裁量労働制の導入と運用
企画業務型裁量労働制の導入にあたっては、労使委員会の設置と就業規則への規定、労使委員会での決議およびそれらの労働基準監督署への届出が必要になります。専門業務型裁量労働制と同様に、みなし労働時間の決定が非常に重要ですので、丁寧な実態調査とヒアリングが必要です。
なお、専門業務型裁量労働制と異なる点として、企画業務型裁量労働制の場合には就業規則に規定することによる包括的な同意だけでは認められず、労働者からの個別同意をとらなければなりません。また、この同意は導入時だけでなく、決議の有効期間ごとにとる必要があります。さらに、6か月に1回の定期報告も必要となるため、専門業務型裁量労働制と比較して、煩雑な手続きが色々とあることに留意しなければなりません。
その他の運用上の留意点
時間外労働・休日労働・深夜労働・休憩について
前述した通り、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、36協定の締結に加え、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。また、裁量労働制を適用する場合でも、労働基準法第35条の休日の規定は適用されるため、裁量労働制の対象者が休日労働を行う場合には、36協定の締結に加え、休日割増の賃金を支払う必要があります。
なお、休日に労働した場合の労働時間は、原則として実働時間となりますが、休日においても業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるのであれば、休日労働においてもみなし労働時間を適用することは可能です。この場合には、労使協定または労使委員会の決議にその旨を定めておかなければなりません。
深夜労働についてですが、裁量労働制を適用する場合でも、労働基準法第37条の深夜労働の規定は適用されますので、深夜に労働する場合には、深夜の割増賃金を支払う必要があり、深夜の労働時間については実働時間を把握しなければなりません。
休憩についても、裁量労働制を適用する場合でも、労働基準法第34条の休憩に関する規定は適用されるため、休憩を与えなければなりません。ただし、休憩時間の指示をすることは裁量労働制の趣旨になじまないため、対象労働者に対しては、なるべく所定の休憩時間に休憩をとることを原則としながらも、労働者自身の判断によって、業務の状況次第では別の時間帯に取得させるなどの対応が必要となります。
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