メンタル不調者の予防と対応

働き方改革 / 生産性向上 / 人事労務


メンタルヘルス不調は多くの企業で非常に大きな問題になっています。労働安全衛生調査(厚生労働省)によれば労働者の50~60%が「仕事から強いストレスを受けている」と答えており、精神障害等の労働災害認定人数もこの20年で10倍近くに増えています。
1人でもメンタルヘルス不調者がでるとその対応に多大の労力を要するため、予防が最も大事だと言えます。令和3年の同調査によると、「仕事の質」「仕事の量」「対人関係」「仕事の失敗、責任の発生等」が4大ストレス要因です。これらをコントロールすることこそがメンタルヘルス不調者を減らすカギとなります。

ポイントは仕事との相性、職場の一体感、上司の力

この4大要因の中で少しわかりにくいのは「仕事の質」です。仕事そのものの内容や意義ももちろん大切ですが、仕事と人との相性も大きくかかわります。単純作業が好きな人、飛び込み営業に生きがいを感じる人、新しい企画を考えるのが好きな人等、向いている仕事は人それぞれで、個人差が大きいです。一般的に相性の合う仕事に取り組んでいれば、ストレスが少ないだけでなくパフォーマンスも上がりますし会社全体の成績も伸びます。ただ、言うは易し行うは難しで、適切な人員がいないこともありますし、従業員のためにと思って配置した部門が本人のストレスになることも十分ありえます。ここはまさに人事・労務部門の手腕が問われるところです。

「仕事の量」は残業時間で見るのが一番わかりやすいですが、労働時間を厳格に管理すると仕事の密度が濃くなりハードになります。ただし、相当ハードな仕事であっても、期限が決まっていて、さらに職場に一体感があるとストレスにはなりにくいとされています。ここでの注意点は、誰からも途中で異議や意見が出ないと一体感があると勘違いしがちであることです。むしろ逆で、疑問や別のアイデアを遠慮なく発言でき、そのうえでいったん決まったことはある程度の期間一致団結して進めていける職場こそが一体感のある職場です。

「対人関係」「仕事の失敗、責任の発生等」においては、上司がキーパーソンです。上司がパワハラ体質である場合、その部署全体の対人関係は悪くなります。また、仕事の失敗に対する指導は必要ですが、必要以上に失敗した人を責める上司や、責任から逃げる上司の下ではストレスは大きくなります。
つまり、高ストレスな環境を作らないためには、誰を上司に採用するかだけでなく、その後に上司としての教育を受ける機会を設けることが大切です。

上司に求められるメンタルヘルス不調予防の力とは

上司として特に身につけてほしいのがメンタルヘルス不調者の芽を早めに発見する力です。この「芽」はKAPE(勤怠K 安全A パフォーマンスP 影響E)と呼ばれます。勤怠の乱れ、自分や他人を傷つける恐れのある危険行動、パフォーマンスの低下、同僚の悪口を言って回るなど周囲に悪い影響を与える行動を指します。部下にこれらの芽が見られたら、是非その部下に声をかけましょう。自分の健康を気にかけてくれる上司がいるだけで気持ちが楽になる従業員も結構多いです。そのうえで相談してきたら相談に乗ります。先の調査でも、実際の相談先の70%は上司です。上司から産業医や社内保健師、会社が契約しているEAP(Employment Assistant Program)を紹介するのも有効です。

ここで部下への対応のコツは、深追いや強要をしないことです。例えばメンタルヘルス不調に陥った方は不眠や興味の減退(今まで楽しめたことが楽しめない)などが起きることが多いですが、向こうから話してこないうちにそれの有無を尋ねたりしない。これが深追いしないということです。また強要とはまだ明らかに重大な状態に陥っていないにも関わらず無理矢理産業医面談を命令したりすることで、これも避けたほうが無難です。
あくまで、「最近どうも勤怠が乱れているし、ストレスが溜まっているんじゃないかと上司としては心配している。もしそうだとしたら私でよければ話を聞くし、私には話しにくければこういった相談先もある。」くらいでとどめておくべきでしょう。このあたりは上司自身が今まで育てられてきた中で、どの先輩・上司の態度が一番救いになったかを思い出しそれを参考にするもよし、実際にその方々がまだ周りにいるならば部下への対処法を相談しに行くもよしです。

今回は紙面の都合でストレスチェックや「4つのケア」等に関しては述べられませんでしたが、これらは厚生労働省が「こころの耳」というサイトを開いているのでこちらも是非参照してみてください。

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