家族のメンタルヘルス不調への対応

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令和4年版過労死等防止対策白書によると、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、 令和3(2021)年は 53.3%であり、依然として半数を超えています。

実は筆者自身も、数年前、職場の朝礼の場で急に呼吸が苦しくなり立っていられないほどのめまいに襲われたことがありました。当時は半年間ほど非常に強いストレスを感じるような状況が続いていたことが原因ではないかと思うのですが、その後、打合せなど人の集まる場所で何度かそのような状態を体験しました。すぐに近所の心療内科を受診し、数カ月通院することで症状は出現しなくなったのですが、自身「鬼メンタル」だと思っていた自分にもこんなことが起きるのか!?と、大変驚きました。

いつ、だれに起きてもおかしくないメンタルヘルス不調。もし、家族がメンタルヘルス不調になってしまった場合どのように対応していったらよいでしょうか?メンタルヘルス不調が業務災害に該当する場合は扱いが異なりますので、今回は業務災害に該当しない場合について検討していきましょう。

家族がメンタルヘルス不調になってしまったら
ご主人または奥様、お子さんの様子がなんだかおかしい、元気がない、夜眠れないみたい。ご家族はとにかく心配です。今日は会社はお休みにしてゆっくり休んでもらおう、仕事、家事?そんなことよりまずは休養、となりますが、しかし、これが何日も続けば、そうはいかない。お尻をたたいてとにかく仕事に行っていきたいのだけれど、状況は良くならない。そして、いよいよ仕事にも行けなくなってしまった…。まずは、とにかく早めに医療機関の受診をしてください。

体が辛くて病院に行けないなら、ご家族が付き添ってあげてください。通院のことを考えれば、当初は通院しやすい自宅近くの病院が良いでしょう。また、どうしても本人が受診をしたがらない場合は、家族が相談に行きアドバイスを受ける方法もあります(全額自費となります)。

自分のメンタルヘルス不調を認めたくない、または精神科に抵抗があるようであれば、まずは内科を受診することをすすめてみてください。内科で異常がなければ、精神科の受診を勧められ、メンタルヘルスの治療につなげられる場合もあるでしょう。

長期の休養が必要と診断されたら
長期の休養が必要と診断されたら、まずは、会社の休職規程を確認してください。休職制度とは、業務外の理由で一時的に労務提供ができない際に、将来的に復帰する見込みがあれば解雇を一定期間猶予する制度です。休職規定がある場合、会社から休職について説明を受けてもらうようにしますが、それができない場合は、本人にきちんと了解をとったうえで、家族が会社に問い合わせてみます。休職制度は一般的に、会社の就業規則や休職規程において①どのような場合に休職となるのか ②休職期間はどれくらいか ③職場復帰する際の基準と、復職の手続き ④休職期間中に復職できない場合の措置といったことが規定されていますので、内容の確認をしましょう。

休職規程はない、という会社でも場合によっては休職が認められることもあるかもしれません。状況をよく説明し①~④を確認してみてください。仮に、当社には休職規程がなく労務不能となった場合には解雇します、という場合であっても、会社には解雇の30日以上前に予告をする義務がありますので、解雇の日付または解雇予告手当について問い合わせてください。

とにかく重要、お金のこと
そして、まず何より気にかかるのは、お金のことでしょう。お金の心配をせずして初めて「心配しないでゆっくり治していこう」と言えるし、本人の精神的な負担も軽減されるはずです。ここでは、どのような金銭的支援が受けられるのかまとめました。

①傷病手当金
傷病手当金は、健康保険の被保険者とその家族の休業中の生活を保障するために設けられた制度で、メンタルヘルス不調の場合でも支給されます。支給期間は、支給開始日から通算して1年6ヵ月となっています。支給額は原則として、過去12ヵ月の標準報酬月額の平均を日額にした額の2/3です。健康保険組合によっては、付加金などが上乗せされる場合があります。

傷病手当金を受給するには、医療機関の初診日以降の連続する3日間を含む4日以上仕事に就けない日があること、給与が一部だけ支給されている場合は、傷病手当金から給与支給分を減額して支給されるなどの条件があります。申請は、会社の人事や総務などの担当者を通じて行います。

休職期間中で給与が支払われなくても、健康保険や厚生年金保険などの社会保険料、住民税は支払わなければなりません。住民税は特別徴収から普通徴収に切り替えられることが多く、自宅に市町村から送られてくる納付書により自分で支払いますが、社会保険料の自己負担分は、会社が立て替えて払うことが一般的です。傷病手当金の入金先を会社に指定し、社保料等の立て替え分を差し引いたうえで会社から本人口座に振込んでもらうことが可能な場合もありますので、これらの立て替え分をどのように支払うかを会社に確認してください。

傷病手当金は、健康保険の被保険者に対して行われるのを原則としていますが、休職期間満了による退職などにより被保険者でなくなった(資格喪失)後においても、資格を喪失する日の前日までに継続して1年以上被保険者であった人は、資格を喪失した際に現に受けていた傷病手当金を引き続き受給することができます。傷病手当金は通算して1年6か月間支給を受けることができることになっていますが、この期間から被保険者である間にすでに支給を受けた残りの期間について受けることができます。この場合、注意したいのは、退職日に残務処理したいなどと出勤してしまわないこと。退職日に出勤してしまうと資格喪失後の給付が受けられなくなってしまいます。また、資格喪失後に一時でも仕事に就くと、資格喪失後の給付は受けられなくなります。資格喪失後の傷病手当金の申請は、協会けんぽや、健康保険組合に対して行います。

②失業給付
会社を離職した後、就職する意思と能力があることが前提に90~360日間支給される雇用保険の給付が、いわゆる失業給付です。傷病、妊娠、出産、育児などの事情がある場合には最長3年まで受給期間を保留できます。受給できる保険料は、離職前の給与を計算式に当てはめた額の50~80%が一般的です。

傷病手当金を受給している期間は、失業給付の受給をすることはできません。傷病手当金は「働けない状態の人に支給されるお金」であり、失業保険は「働く意欲のある人に支給されるお金」であり、同時にこれら2つの要件を満たすことはありえないからです。退職時、働くことができない状態なら、まず傷病手当金を受給し、その後働ける状態になってから失業保険の申請をします。
失業給付の受給期間は退職後1年以内です。傷病手当金の受給期間は最大で1年6か月なので、失業
期間が長くなると、失業給付受給期間の1年を過ぎてしまいます。そんな場合は受給延長の手続きを行います。受給延長が認められれば、失業給付の受給可能期間を最長3年間まで延ばしてもらうことができます。

③自立支援医療制度
通院も長引けば、医療費も心配です。自立支援医療制度は、通院による精神医療を続ける必要がある方の通院医療費の自己負担を軽減するための制度で、精神障害により、通院による治療を続ける必要がある程度の状態の人が対象となります。

医療費の軽減が受けられる医療の範囲は、精神障害や、当該精神障害に起因して生じた病態に対して、精神通院医療を担当する医師による病院又は診療所に入院しないで行われる医療(外来、外来での投薬、デイ・ケア、訪問看護等が含まれます)が対象となりますが、
入院医療の費用、公的医療保険が対象とならない治療、投薬などの費用は対象外となります。また、通院する医療機関が指定自立支援医療機関であることが必要です。

この制度を利用した場合、一般の方であれば公的医療保険で3割の医療費を負担しているところが1割に軽減されます。他にも軽減の措置がありますので、詳細や申請方法は各市町村の窓口まで問い合わせてみると良いでしょう。

④精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳は、障害者手帳の種類の1つで、うつ病などの精神疾患がある人に交付されます。症状や生活における支障の程度に応じて1級から3級まで等級があります。精神障害者保険福祉手帳の交付を受けると、所得金額から等級に応じて一定金額の控除を受けることができ、所得税や住民税が軽減されます。また、精神障害者保健福祉手帳を持つ人に対しては、相続税や贈与税など税制上の優遇措置があります。他にも、公共施設や民間の施設での割引や交通機関の運賃の割引を受けることができるケースもあります。精神障碍者保健福祉手帳の申請は各市町村の窓口で行います。

⑤障害年金
障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金があり、メンタルヘルス不調により初めて医師の診療を受けたとき(初診日)に国民年金に加入していた場合は障害基礎年金、厚生年金保険に加入していた場合は障害厚生年金が請求できます。障害年金を受け取るには、年金の保険料納付状況などの条件が設けられています。

また、民間の医療保険や、所得補償保険に加入されている場合は、メンタルヘルス不調でも保険金の請求が可能な場合もありますので、確認をしてみてください。

会社への対応は?
休職の当初は、仕事から離れて治療に専念できるように配慮すべきです。仕事のメールやSNSは遮断し、会社に対しても本人と接触しないようにお願いし、会社との窓口はご家族が担当しましょう。本人と会社との接触は避けなければいけませんが、ご家族と会社の連絡はきちんと取るべきです。傷病手当金申請書は会社に提出しますので、提出の際に近況などを書き添えることをお勧めします。会社としても、休職中の従業員やその家族から全く連絡なければ、どのような状態にあるのか、復職できるのかの判断もできません。あげくはその病状に不信感を抱くこともあるかもしれません。会社の担当者と連携することで少しでも手続きや復職がスムーズにいくように準備をしていくと良いでしょう。

メンタルヘルス不調の家族を抱える従業員への対応
もし、従業員から「実は妻または夫、子供がメンタルヘルス不調で…」と申出があった場合、どのように対処したら良いでしょうか?

まずは個人情報の保護が重要です。従業員やその家族のプライバシーを尊重し、情報を慎重に扱わなければいけません。その情報を、会社の然るべき担当者や上長と共有して良いか、本人に確認し、他の従業員に共有しないように厳重に取り扱うべきでしょう。

メンタルヘルス不調者を家族に抱える従業員に対しては、理解とサポートも必要です。有給休暇の取得や、状況によっては介護休暇を取得するよう促してください。仕事に影響を与える可能性があるようなら、柔軟な勤務時間の導入を検討する必要があるかもしれません。

一定の条件を満たす場合は、介護休業を取得することも考えられるでしょう。育児・介護休業法に定める「要介護状態」とは、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことをいいます。介護保険の要介護認定を受けていなくても、介護休業の対象となり得ます。常時介護を必要とする状態については、判断基準が定められていますので、この基準に従って判断されることになります。 従業員の雇用保険被保険者期間によっては、雇用保険から介護休業給付金を受給することができますので、該当する場合は手続きを行います。

不調が長期的になる場合は、仕事の負担を一時的に軽減したり、適切なキャリアプランを検討したりすることにより、従業員のキャリア面に配慮を持ちながら柔軟な対応を取ることも必要です。

いつ治るのかわからない、生活の先の見えない、メンタルヘルス不調の家族を抱えながら働き生活していくことは、非常に難しいものです。従業員本人へのメンタルヘルスケアにも十分配慮しながら、必要以上にプライベートに踏み込まず、支援のための制度や情報を提供し、精神的に孤立させないようにしていくことが重要です。

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