顔認証 勤怠管理は本当にコスパが良いのか? コストと精度の比較検証、デメリットを解消するシステム選び

勤怠管理


顔認証勤怠管理システムは、専用端末やタブレットのカメラで従業員の顔を識別し、出退勤時刻を自動で記録する仕組みです。従来のタイムカードやICカードでは防ぎきれなかった不正打刻を物理的に排除できる点が、中小企業を中心に関心を集めています。

本記事では、顔認証勤怠管理の導入コストや認証精度を検証し、デメリットへの対策とシステム選定のポイントを解説します。

顔認証勤怠管理が中小企業で注目される理由

顔認証を活用した勤怠管理は、法令対応、不正防止、導入コストの低下という3つの追い風を受けて普及が進んでいます。ここでは、中小企業がこのシステムに注目する背景を整理します。

法改正で求められる「客観的な労働時間把握」

2019年4月に施行された改正労働安全衛生法により、企業には従業員の労働時間を客観的な方法で把握・記録する義務が課されました。この規定は企業規模を問わず適用され、管理監督者も対象に含まれます。

自己申告による勤怠管理が一律に禁止されたわけではありません。ただし、労働時間の把握は原則としてタイムカード、ICカード、PC使用時間等の客観的記録または現認により行い、自己申告を用いる場合は、説明・実態調査・乖離の補正等の適正運用が求められます。顔認証は本人の生体情報と打刻時刻を照合・記録でき、改ざんや虚偽が極めて困難なため、コンプライアンス強化を図る企業にとって有力な選択肢となっています。

タイムカードやICカードでは防げない不正打刻の問題

従来の勤怠管理手法には、代理打刻やなりすまし打刻という根本的な課題がありました。タイムカードは同僚に代わりに打刻してもらうことが可能であり、ICカードも貸し借りによる不正を物理的に防げません。

こうした不正打刻は人件費の無駄遣いだけでなく、真面目に働く従業員との間に不公平感を生み出します。顔認証であれば本人以外が代行することは事実上不可能です。カードのように持ち歩く必要もないため、紛失や忘れ物によるトラブルも解消できます。

AI技術の進化とクラウドサービスで導入ハードルが低下

かつては「顔認証は精度が低い」「高額な専用ゲートが必要」というイメージが根強くありましたが、ディープラーニング技術の進化により状況は大きく変わりました。現在の主流システムでは、マスクや眼鏡を着用した状態でも高い認識率を維持できます。

導入形態も多様化しています。専用端末を設置する方式に加え、市販のタブレットやスマートフォンにアプリをインストールするだけで利用できるクラウド型サービスが増えました。自社サーバーを用意する必要がなく、月額課金で手軽に始められるため、中小企業でも導入しやすい環境が整っています。

顔認証勤怠管理のコストを徹底検証する

顔認証勤怠管理の導入を検討する際、最も気になるのはコスト面でしょう。ここではクラウド型と専用端末型それぞれの費用構造を、代表的なサービスの価格とともに整理します。

クラウド型なら初期費用ゼロで始められる

クラウド型の顔認証勤怠管理サービスは、初期費用を大幅に抑えられる点が最大の特徴です。代表的なサービスの料金体系を見てみましょう。

KING OF TIMEは、クラウド勤怠管理システムとして国内トップクラスのシェアを持つサービスです。公式サイトによると、初期費用は0円で、1人あたり月額300円(税抜)から利用できます。

出典:KING OF TIME 公式サイト「価格一覧」
https://www.kingoftime.jp/costlist/

ジョブカン勤怠管理も初期費用無料で導入できます。1機能利用の場合は1ユーザーあたり月額200円(税抜)から、機能追加ごとに+100円という料金体系です。

出典:ジョブカン勤怠管理 公式サイト「プラン・料金」
https://jobcan.ne.jp/price

クラウド型で初期費用がかからない理由は、自社でサーバーを構築する必要がなく、専用機器の購入も不要なためです。すでに社内にあるタブレットやスマートフォンを打刻端末として活用でき、インターネット環境さえ整っていれば申し込みから数日で運用を開始できます。

試験的に一部の部署から導入し、効果を確認しながら全社展開するといった段階的なアプローチも取りやすい点がメリットです。

ランニングコストは月額200~300円/人が相場

クラウド型サービスのランニングコストは、1ユーザーあたり月額200~300円程度が現在の相場です。

従業員20名の事業所で月額300円/人のサービスを利用する場合、月額費用は6,000円、年間で72,000円となります。

この月額料金にはシステムの保守やアップデート費用が含まれていることが多いです。オンプレミス型のように別途保守契約を結ぶ必要がなく、料金体系が明瞭で予算管理がしやすい点もメリットといえます。

専用端末型は高機能だが費用増に注意が必要

専用の顔認証端末を設置するタイプは、高い認証精度や安定した動作が期待できる反面、初期費用が大きくなりやすい傾向があります。

たとえば株式会社アートが2024年3月に発売した顔認証端末「F-5830」は、顔認証精度99%以上、認証速度0.2秒以内というスペックを備えています。

出典:PR TIMES「顔認証端末 F-5830 発売」(2024年3月26日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000078912.html

最近ではリースやサブスクリプション形式で専用端末を提供するサービスも増えており、初期費用を抑えて月額払いで利用開始できる選択肢も広がっています。

他の勤怠管理方式とのトータルコスト比較

顔認証勤怠管理のコストパフォーマンスを正しく評価するには、他の方式との比較が欠かせません。単純な導入費用だけでなく、運用コストや不正防止効果も含めたトータルな視点が求められます。

方式 初期費用 ランニングコスト 不正防止 管理工数
紙のタイムカード 数万円(打刻機) 用紙代(1枚数十円) ×
ICカード 数万~十数万円 カード発行費(1枚数百円)
指紋・静脈認証 数十万円 保守費用
顔認証(クラウド型) 0円~ 月額200~300円/人
顔認証(専用端末型) 製品により異なる 月額費用または保守費用

紙のタイムカードは導入費用こそ安価ですが、毎月の集計作業に多大な工数がかかります。ICカード方式は自動集計が可能ですが、カードの発行・再発行コストや紛失対応の手間が継続的に発生し、代理打刻も防げません。

顔認証は初期費用こそやや高めに見えるものの、不正打刻の防止による人件費適正化や、集計業務の効率化による間接コスト削減を考慮すれば、トータルでは十分に見合う投資となり得ます。

認証精度と速度は業務に耐えうるか

顔認証勤怠管理の導入をためらう理由として、「本当に正確に認識できるのか」「混雑時に行列ができないか」という懸念を挙げる企業は多いです。ここでは最新技術の実力を具体的な数値とともに検証します。

最新AIエンジンが実現する99%超の認証精度

NECは2024年2月、米国国立標準技術研究所(NIST)が実施した顔認証技術のベンチマークテストで世界第1位を獲得したと発表しました。1,200万人分の静止画を用いた「1:N認証」において認証エラー率0.12%という評価を獲得しています。

出典:NEC プレスリリース「NEC、米国国立機関による顔認証精度評価で第1位を獲得」(2024年2月8日)
https://jpn.nec.com/press/202402/20240208_01.html

認証エラー率0.12%は、1,000回の照合で誤認が約1回という水準であり、勤怠管理の用途としては十分な精度です。

マスク着用・眼鏡・暗所でも認証できる最新技術

NECは2020年9月、マスク着用時でも高精度な認証を実現する顔認証エンジンを開発したと発表しました。社内評価において、マスク着用時の1:1認証での認証率は99.9%以上を達成しています。

出典:NEC プレスリリース「NEC、マスク着用時でも高い精度を実現する顔認証製品を販売開始」(2020年9月24日)
https://jpn.nec.com/press/202009/20200924_01.html

NECの公式サイトによると、同社の顔認証技術は横向きや経年変化、マスクやメガネ着用時にも高精度で認証可能とされています。赤外線センサーを組み合わせた3D顔認証技術により、暗い場所や照明変化にも強い認証を実現しています。

認証速度0.2~0.5秒で朝夕の混雑を回避

出勤時刻が集中する朝や退勤が重なる夕方に打刻待ちの行列ができては、従業員のストレスにつながります。前述のF-5830端末は「顔認証速度0.2秒以内」を特徴としており、1,500人分の顔データを登録した状態でも瞬時に結果を返せる処理能力を持っています。

クラウド型サービスでも、端末側でAI処理を完結させる設計を採用することで、ネットワーク遅延の影響を受けずにリアルタイム認証を実現している製品があります。大人数が同時刻に集中する職場では、端末を複数台設置して分散処理する運用も有効です。

導入前に知っておくべきデメリットと具体的な対策

顔認証勤怠管理には多くのメリットがありますが、導入にあたって考慮すべき課題も存在します。ここでは代表的なデメリットと、それぞれに対する具体的な対策を解説します。

認証エラーには複数画像登録と代替手段で備える

カメラに強い逆光が入る場所や、照明が極端に暗い場所では認証エラーが発生する可能性があります。導入前に実機デモやトライアルを実施し、実際の設置場所での認証テストを行うことが重要です。

従業員の顔情報は、眼鏡をかけた状態と外した状態など複数パターン登録しておくと認識率が向上します。それでも認証できない場合に備えて、管理者による手動修正ルールやICカードリーダーの併設など、バックアップ体制を整えておくと安心です。

従業員の心理的抵抗は丁寧な説明と段階的導入で軽減

顔認証の場合、「顔データを会社に管理されることへの不安」や「常に監視されているような感覚」を訴える声が上がることがあります。導入目的を丁寧に説明し、法令対応や働き方改革のためであることを明確に伝える必要があります。

いきなり全面切り替えするのではなく、従来の打刻方法と並行運用する移行期間を設けることも効果的です。使い方の問い合わせに対応するヘルプデスクを設置しておくと、導入初期の混乱を最小限に抑えられます。

システム障害リスクにはバックアップ体制を整える

停電やネットワーク障害、機器故障といったリスクから完全に逃れることはできません。停電対策としてはUPS(無停電電源装置)の設置が有効です。

クラウド型サービスでも、端末内に認証機能を持つ製品であれば、一時的にインターネット接続が切れても端末側で打刻データを蓄積し、回線復旧後にまとめて送信できます。緊急時の代替打刻方法を社内規程に盛り込んでおくとよいでしょう。

プライバシー懸念への対応とデータ保護の徹底

顔画像データや特徴量データは個人の生体情報を含むセンシティブな情報です。取得した顔データの利用目的と保管方法を明文化し、従業員に周知することが求められます。

技術面では、顔画像や特徴データを強力な暗号化技術で保護し、データへのアクセス権限を厳格に管理することが必須です。定期的なセキュリティ監査や脆弱性チェックを実施し、システムの安全性を継続的に担保することも忘れてはなりません。

顔認証勤怠管理は「投資対効果」で導入を判断する

顔認証勤怠管理システムは、決して安価な投資ではありません。しかし、不正打刻の防止、集計業務の効率化、法令順守の実現といった効果を総合的に評価すれば、十分なリターンが期待できるソリューションです。

導入を判断する際には、費用面と効果面を定量的に試算することが重要です。ICカード運用で発生していたカード発行・管理コスト、集計作業に費やしていた人件費、不正打刻によって流出していた残業代などを洗い出し、顔認証システム導入によって削減できる金額を見積もります。

本記事のポイントを整理すると以下のとおりです。

・2019年の法改正により、客観的な労働時間把握が全企業に義務づけられた
・顔認証は代理打刻やなりすましを物理的に防止できる
・クラウド型なら初期費用ゼロ、月額200~300円/人で導入可能
・最新システムの認証精度は99%超、認証速度は0.2秒台も実現
・デメリットは事前対策と運用ルールの整備で軽減できる
・導入判断は単純な費用比較ではなく投資対効果で行う

「顔認証勤怠管理は本当にコスパが良いのか」という問いに対する答えは、自社の課題とニーズによって変わります。不正打刻や手作業による集計負担に悩んでいるのであれば、顔認証システムの導入効果は大きいはずです。まずは無料トライアルやデモを活用して、自社環境での動作確認から始めてみてはいかがでしょうか。

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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実