【エクセル勤怠管理の限界】法改正でアウト? デメリットを解消し、システム移行を決断する3つの判断基準

勤怠管理


中小企業の中にはまだ勤怠管理にエクセルを活用しているところも少なくありません。追加コストがかからず手軽に始められる点が魅力ですが、近年はより正確な勤怠管理を求められる傾向にあり、何となくエクセルで管理しているだけでは、「正確な勤怠管理とは言えない」と判断されるリスクがあります。本記事では、エクセル勤怠管理のデメリットを整理し、システム移行を決断するための3つの判断基準を解説します。

エクセル勤怠管理が中小企業に選ばれる理由

エクセルによる勤怠管理は、特に中小企業で広く浸透しています。専用システムを導入せずとも運用を開始できる手軽さが、多くの企業に支持される理由です。ここでは、エクセル勤怠管理が選ばれる主な理由を確認しておきましょう。

初期コストがほぼゼロで始められる

エクセル勤怠管理の最大の魅力は、導入にかかる費用をほぼゼロに抑えられる点にあります。

多くの企業では、業務用PCにMicrosoft Officeがすでにインストールされています。エクセルが使える環境さえ整っていれば、新たにソフトウェアを購入する必要はありません。インターネット上には無料の勤怠管理テンプレートも数多く公開されており、それらをダウンロードすればすぐに運用を開始できます。

一般的な勤怠管理システムは、初期費用や月額利用料が発生するケースがほとんどです。予算に余裕のない創業期や小規模事業者にとって、追加投資なしで勤怠管理を始められるエクセルは現実的な選択肢となっています。

操作に慣れた社員が多く導入ハードルが低い

エクセルは業務用ソフトとして広く普及しており、基本的な操作方法を理解している社員が多いという利点があります。

新しいシステムを導入する場合、操作方法を覚えるための研修や、マニュアル整備に時間と手間がかかります。一方、エクセルであれば特別なトレーニングを実施しなくても、多くの社員がすぐに使い始められます。

人事担当者にとっても、日常的に使い慣れたツールで勤怠データを管理できる安心感は大きいでしょう。新システム導入に伴う社内説明や問い合わせ対応の負担を避けられる点も、エクセルが選ばれる理由の一つです。

自社の就業ルールに合わせて自由にカスタマイズできる

エクセルは関数やマクロ(VBA)を活用することで、自社独自の就業規則や勤務形態に合わせた勤怠管理表を作成できます。

一般的な勤怠管理システムでは、あらかじめ用意された機能の範囲内でしか運用できないケースがあります。自社特有の手当計算や勤務区分に対応できず、結局は手作業での調整が必要になることも少なくありません。

その点、エクセルであれば計算式や項目を自由に設計可能です。所定労働時間の設定、残業時間の集計方法、休日出勤の扱いなど、細かなルールまで自社仕様で作り込めます。エクセルに精通した担当者がいる企業では、この柔軟性が大きな強みとなっています。

エクセル勤怠管理の限界と主なデメリット

エクセル勤怠管理には多くのメリットがある一方で、運用を続けるうちに様々な課題が表面化してきます。事業規模の拡大や法制度の変化に伴い、エクセルでは対応しきれない場面が増えているのが現状です。

ヒューマンエラーによる計算ミスのリスク

エクセルでの勤怠管理において最も注意すべき点は、人的ミスによる計算間違いが発生しやすいことです。

関数の設定ミスやセル参照のずれは、勤務時間や残業代の計算に直接影響を及ぼします。複雑な勤務形態に対応しようとするほど数式は複雑化し、設定ミスのリスクも高まります。一箇所でも式にエラーがあると合計値が合わなくなり、どこで間違えたかを特定する作業に膨大な時間がかかります。

さらに深刻なのは、計算式のミスに気づかないまま長期間運用してしまうケースです。後から大規模な給与修正が必要になったり、未払い残業代として法的トラブルに発展したりする可能性もあります。

勤務実績データの改ざんリスクと客観性の欠如

エクセルの勤怠記録は、誰でも容易に編集・改変できてしまうという構造的な問題を抱えています。

従業員自身が遅刻を隠すために出勤時刻を書き換えたり、上司が部下の残業時間を削減するよう圧力をかけてデータを改ざんさせたりすることが、技術的に防止しにくい状況にあります。

ICカード打刻やクラウド型の勤怠システムであれば、操作ログや変更履歴が自動的に記録されます。しかし、エクセルではセルの値を書き換えるだけで記録を変更でき、編集者の特定や履歴の追跡が困難です。このように客観性に欠ける管理方法は、労働基準監督署の調査において信頼性のある記録として認められない場合もあります。

法改正や就業ルール変更への対応負荷

労働基準法や関連法令は頻繁に改正されており、勤怠管理に関わるルールも例外ではありません。エクセルで管理している場合、法改正のたびに計算式や管理表を自ら修正する必要があります。

たとえば、2023年4月からは中小企業にも月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率50%が適用されました。専用の勤怠管理システムであればシステムの仕様変更はベンダー側が対応しますが、エクセル運用ではすべて自社で修正しなければなりません。

法改正への対応漏れは、そのまま法令違反につながるリスクを伴います。アップデートを失念したまま運用を続ければ、意図せず違法状態に陥る可能性があることを認識しておく必要があります。

作業の属人化とデータ管理の煩雑さ

エクセルで高度な勤怠管理シートを作り込むほど、その運用は特定の担当者に依存しやすくなります。

複雑な関数やマクロを駆使したシートは、作成者以外には理解しにくいものです。担当者が休暇を取ったり異動・退職したりした際に、後任者への引き継ぎが難航するケースは珍しくありません。

また、複数の従業員や部署のデータを集約する作業にも手間がかかります。フォーマットが統一されていなければ、毎月手動で関数設定をし直す羽目になりかねません。エクセルファイルはPC上で管理する以上、保存ミスやファイル破損によるデータ消失リスクも考慮が必要です。

従業員数の増加や働き方の多様化への対応困難

エクセルでの勤怠管理は、従業員数が少なくデータ量が限定的な段階に適した方法です。社員数が増加し、勤務形態が多様化するにつれて、エクセル管理の限界は明らかになっていきます。

100名、200名規模の企業で全員分の勤怠を一つのエクセルファイルで管理しようとすれば、入力・確認作業は膨大になり、ファイル自体も巨大化して操作が重くなります。

加えて、テレワークやフレックスタイム制など働き方が多様化するなか、出社しないとエクセルに入力できない運用方法は現実的ではありません。クラウド型の勤怠システムであれば、どこからでも打刻・申請が可能です。

法改正でエクセル勤怠管理が「アウト」になる理由

エクセル勤怠管理の課題は、単なる運用上の問題にとどまりません。近年の法改正により、ただ何となくエクセルで記録しているだけではでは法令違反となるリスクが高まっています。ここでは、法的な観点からエクセル勤怠管理の問題点を整理します。

労働時間の客観的把握が義務化された背景

厚生労働省は2017年1月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しました。このガイドラインでは、勤怠管理の原則として以下の2点が示されています。

  • 使用者が自ら現認(直接確認)することによって労働時間を把握すること
  • タイムカード、ICカード、PCの使用時間記録などの客観的な記録を基礎として確認・記録すること

出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

さらに2019年4月には、働き方改革関連法の一環として労働安全衛生法が改正され、使用者による労働時間の客観的把握が法的に義務化されました。この改正により、自己申告のみで労働時間を把握する場合には、客観的記録との突合や実態調査等の措置が求められ、それらを伴わない運用は法令上・行政指導上、是正対象となるリスクが高い。

自己申告のみの運用では法的リスクが高まる

エクセルに従業員自身が出退勤時刻を入力する運用は、上記ガイドラインでいう「自己申告制」に該当します。ガイドラインでは、自己申告制は例外的な方法として位置づけられており、採用する場合でも会社側で目視確認や客観データとの照合を行うことが求められています。

タイムカードなどの客観的記録がなく、エクセルへの自己申告のみで勤怠を管理している場合、労働基準監督署の調査において適正な勤怠管理とは認められない可能性があります。自己申告のみの運用を続けることは、是正勧告や指導を受けるリスクを抱えることを意味します。

勤怠管理システムへの移行で解決できること

エクセル勤怠管理の課題は、専用の勤怠管理システムを導入することで大幅に解消できます。近年は中小企業向けにも低コストで使いやすいクラウド型サービスが多数登場しており、導入のハードルは下がっています。

打刻の客観性確保と改ざん防止

勤怠管理システムでは、ICカードやスマートフォンアプリ、PCログイン連動など、様々な方法でワンタッチの出退勤打刻が可能です。

これらの打刻データは、タイムカードと同様に改ざんが困難な客観的記録として自動的に保存されます。従業員本人の手入力ではないため、厚生労働省のガイドラインに沿った客観的な勤怠把握が実現できます。

また、システム上にはアクセス権限管理や操作ログが備わっており、誰がいつデータを変更したかの履歴も残ります。不正な改ざんを抑止する効果があり、万が一問題が発生した場合でも原因の追跡が可能です。

残業時間・有給休暇の自動管理

勤怠管理システムは、所定労働時間を超えた残業時間の集計や、有給休暇の取得日数・残日数を自動で計算・管理します。

エクセルでは毎月手作業で行っていた集計作業が自動化されるため、計算ミスのリスクは大幅に低減します。消化状況の可視化やアラート通知機能も備わっており、有給取得義務への対応や過重労働の防止にも役立ちます。

36協定で定めた時間外労働の上限に近づいた場合に警告を出す機能を持つシステムも多く、法定上限を超えないよう事前に対策を講じることが可能です。

法改正への自動対応とリアルタイム集計

専用システムでは、法改正への対応をベンダー側が行います。残業割増率の変更や新たな労働時間規制が導入された場合でも、ユーザー企業が自ら計算式を修正する必要はありません。常に最新の法制度に基づいた勤怠管理が可能となり、対応漏れによる法令違反のリスクを回避できます。

また、クラウド型システムでは打刻と同時にデータがサーバーに蓄積されるため、管理者はいつでも全社員の勤怠状況をリアルタイムに把握できます。テレワーク中の社員の勤務状況もオンラインで確認可能です。

エクセルからシステム移行を決断する3つの判断基準

エクセル勤怠管理にもメリットはありますが、ここまで述べてきたように多くの限界も存在します。では、具体的にどのような状況になったらシステム移行を決断すべきなのでしょうか。以下に3つの判断基準を示します。

法令遵守に不安がある場合

最新の労働関連法規にエクセルの運用が追いついているか、少しでも不安があれば移行を検討すべきタイミングです。

たとえば、2023年4月の残業割増率改正にエクセルの計算式を対応させたか確信が持てない場合は注意が必要です。また、タイムカードなどの客観的記録がなく、自己申告のエクセルのみで勤怠を管理している場合も要注意です。

法令遵守に関する不安は、そのまま企業リスクに直結します。勤怠管理システムであれば、ベンダー側で法改正に対応してくれるため、コンプライアンス維持の観点から安心して運用を続けられます。

業務負荷やミスが増大している場合

勤怠管理業務そのものに過度な時間や労力を割いている場合、あるいはミスが頻発している場合は、人的リソースの限界を超えているサインです。

毎月の勤怠集計に膨大な時間がかかり、入力ミスを探すのに何時間もかけている状況は健全とはいえません。エクセル管理は一見コストゼロに見えますが、その裏では人的コストや担当者の時間外労働という隠れたコストが発生しています。

勤怠管理システムを導入すれば、集計・計算が自動化され、担当者の作業負担は大幅に軽減されます。ミス防止の仕組みも組み込まれており、トラブルの芽を事前に摘むことが可能です。

社員規模や働き方がエクセル管理の範囲を超えている場合

自社の従業員数や勤務形態が、エクセルで対応できる範囲を明らかに超えている場合は、迷わずシステム導入を決断してよいでしょう。

目安として、社員数が数十名規模を超えて100名、200名といった段階になると、エクセルでの一元管理は現実的ではなくなります。また、本社以外に複数の拠点を持つ企業や、テレワーク・フレックスタイム制など多様な働き方を導入している企業も、システム化を検討すべきタイミングにあります。

現在は小規模でも、事業拡大を計画している場合は、早めにシステムを導入しておく選択肢もあります。

まとめ:エクセル勤怠管理の限界を見極め最適なタイミングでシステム移行を

エクセルによる勤怠管理は、低コストで手軽に始められる点が魅力であり、中小企業で広く浸透してきました。しかし、法改正によるコンプライアンス要件の厳格化や働き方の多様化が進む現在、エクセル運用の限界が明らかになっています。

本記事のポイントを整理すると、以下のとおりです。

  • エクセル勤怠管理は低コストで手軽だが、計算ミスや改ざんリスクがある
  • 2019年の法改正で自己申告のみの管理は法的リスクが高まっている
  • 勤怠管理システムで客観的記録・自動集計・法改正対応が実現できる
  • 法令遵守・業務負荷・社員規模の3基準で移行タイミングを判断する

エクセル勤怠管理を続けるか、システムに移行するかの判断は、自社の状況に照らし合わせて行う必要があります。本記事で示した3つの判断基準に一つでも当てはまるようであれば、具体的な検討を始めることをおすすめします。効率的でコンプライアンスに強い勤怠管理体制を築くことが、従業員の健康と企業の信頼を守る土台となるでしょう。

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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実