売り手市場に負けない!中小企業の採用成功のカギは土台作りにあり その1
人事労務
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売り手市場に負けない!中小企業の採用成功のカギは土台作りにあり①
来年度の新卒採用活動がひと段落した、という企業も多いのではないでしょうか。今年も学生側が有利となる売り手市場の状況が続き、企業からは非常に採用に苦戦しているという多くの声が聞かれました。
まだまだサマーインターンシップで忙しくされている企業もあると思いますが、まもなく2020年春入社の採用活動についても検討を始めなければならない時期がやってきます。
新卒採用に限らず、中途採用も含めてこれまでの採用活動を振り返った時、どのような課題が挙げられるでしょうか。
母集団形成がうまくいかない、選考の途中で辞退が相次いでしまう、そもそも採用活動のやり方が分からない、マンパワー不足のため社長が片手間で対応している・・・。
いずれもよく耳にする課題です。このように、各企業様々な課題を抱えていることでしょう。
特に中小企業では、人事業務の中で採用業務は後回しにされがちです。それは明確な締め切りや法律による縛りがないからでしょうか。
しかし、会社の存続や発展のために何より重要なのが『人』であることは言うまでもありません。
今回は、この「人材採用」について取り上げ、課題解決の秘訣についてもお伝えしてまいります。
採用市場の状況
日本では現在、少子高齢化が進み、労働力人口(15歳以上で、労働する能力と意思をもつ者の数)が減少を続けています。総務省の調査によると、50年後には、今より約4割労働力人口が減少するとみられています。
今も既に採用市場は求職者有利の売り手市場ではありますが、これがさらに加速し、今後は企業間で激しい人材の取り合いになることが予想されます。
黒字経営でも人手不足で事業が成り立たず倒産してしまう「人手不足倒産」の企業も、今よりもっと増えてしまうことでしょう。
このような状況にある今、各企業はこれまでの男性正社員を中心とした採用戦略のみならず、女性や高齢者、障がい者など多様な人材の採用や活用についても検討を進める必要があります。
また、従業員の働きやすい環境整備やモチベーションアップのための施策、組織作りを積極的に行うことにより他社との差別化を図り、求職者に選ばれる企業になることも重要です。
大切なのは、中小企業が採用活動で成功するためにはいかに「土台作りが大切か」、ということです。ここからは、なぜ「土台作りの重要性」に焦点を当ててお伝えしてまいります。
採用は土台作りが大切
突然ですが、求人広告を出すとき、ただ何となく求人広告を出していませんか?
人を採用しようと思い立った企業がよく最初に気にかけるのは、「どの求人媒体を使ったら人が採用できるのだろうか。」ということです。
現在、応募を集める媒体には多種多様なものがあります。ハローワーク、Webの求人サイト、求人雑誌、新聞折り込み、SNS、人材紹介、リファラル、大規模イベント、公的機関が開催するイベントなどなど。Webの求人サイトひとつをとっても、掲載料が高額なものから無料のものまで様々です。
しかし、最初に考えるべきことが、どの求人媒体を使うか、ということで本当に良いのでしょうか。
まず考えるべきことはそこではなく、「何のために採用活動を行うのか」「どんな人材を採用したいのか」を整理することではないかと思います。
これを整理する上では、自社の業界が今どんな状況にあり、今後どうなっていくのか?自社の業界における立ち位置はどこなのか?自社は今後どんな方向に進んでいくのか、など自社について整理・把握しておく必要があります。
そして、もうひとつ大切なのは、過去の採用活動を振り返ることです。
これまで採用がうまくいかなかったのは何がまずかったのか?うまくいったポイントはどこだったのか?振り返りなくしてはより良い採用活動への第一歩を踏み出すことはできません。
これらのことを整理したり振り返ることをせずに今までと同じように漫然と求人広告を出すことで、「また今回も人が採用できなかった」とか「うちの会社は知名度が低いから仕方がない」という残念なボヤキが繰り返されることになってしまうのです。
なぜ人を採用したいのか?(目的)
「なぜ人を採用したいのか?」
この質問に対し、みなさまはどのように答えますか?
「そんなの愚問ですよ。人材不足だからに決まっているでしょう。」
こんな声が聞こえてきそうな気がします。
しかし、これは人を採用する本当の目的とは違うように思います。
採用を通して、何を成し遂げたいのでしょうか?
その先にきっと目指す姿があるはずです。
例えば、組織にフレッシュな風を入れたいとか、従業員の高齢化が進んでいるため年齢構成比を適正化して会社の将来に備えたいということであれば新卒や第二新卒がターゲットになるでしょう。
現状に問題がなく、売上や利益の拡大を目指すのであれば、実務経験重視の即戦力中途人材がターゲットになりますし、現状が停滞しており、組織の活性化や突破口を見出したいのであれば、人間力やポテンシャルを重視した中途人材がターゲットになるでしょう。
採用の目的が明確にならないと、この採用ターゲットは決まりません。そして採用ターゲットが決まらないと、どの求人媒体を使うか、どんな選考を行うかなど、具体的な戦略を立てるのも難しくなります。
尚、採用の目的を明確化するためには、まず人材に関する現状の課題の洗い出すことが必要になります。課題を洗い出す際は、人事部門だけでは把握しきれないことも考えられますので、各部門の協力を仰ぎながら進めていくと良いでしょう。
採用計画書を作成する
目的が明確化したら、採用計画を立て、計画書を作成しましょう。
採用計画書には目的や方針、採用目標人数やターゲット、戦略について記載していきます。
特に新卒採用については、大学など学校との関係性も重要になりますので、どんな学校がターゲットなのか、そしてその学校へのアプローチ方法はどんなものが望ましいのか、など把握できる範囲で具体的に記載しておくと分かりやすいでしょう。
また、新卒・中途問わず、選考フローやその選考の意味合いについても記載しておきます。
一例を挙げると以下のような内容ですが、言葉だけでなく、図式化しておくと分かりやすいです。
面接官 :一次選考は人事部長および現場の課長が担当。二次選考は社長が担当。
選考フロー:一次選考→二次選考→内定
適性検査は二次選考時に行う。一次選考と二次選考の間は1週間以上開けない。
必要書類 :一次選考時に履歴書と職務経歴書を提出。
選考時、面接官は『面接官評定票』を使用。
面接は、求職者を見極めるだけの場ではありません。「いかに口説けるか」という動機付けも重要なポイントを占めます。各選考段階にどんな意味を持たせるのかについても事前に決めておき、計画書に記載しておくと良いでしょう。
採用計画書は計画書でありながら、採用マニュアルとしても活用できるように具体的に記載しておくと、複数の採用担当者がいても共通の認識の下で採用活動が行えるほか、採用担当者が変わっても戸惑うことが少なくなります。これまでの経験や感覚で何となく採用活動を行うのではなく、しっかり計画書を整備した上で採用活動を行うことをお勧めします。
求める人材像明確化の重要性
採用担当者に「どんな人材を採用したいか?」という質問を投げかけると、高い頻度で、「コミュニケーション能力が高い人材」といった回答が返ってきます。確かにコミュニケーション能力は仕事を問わず全ての基本であり、とても大切な能力です。
ところで、「コミュニケーション能力」とは具体的にどんなことを指しているのでしょうか。
「コミュニケーション能力」と一口に言っても、百貨店の販売員に求められるコミュニケーション能力と、IT企業のシステムエンジニアに求められるコミュニケーション能力では違いがありますし、企業によっても求められるコミュニケーション能力は異なると思います。
実はこのように求める人材像が抽象的なキーワードで共有されているに過ぎない状態で採用活動をしている企業が多く、そうなると面接の合否判断が面接官の主観にゆだねられ、面接の水準が一定に保てないという問題が生じます。
ミスマッチな人材を採用してしまうことは、採用された本人の早期退職につながるばかりでなく、周りの従業員へのマイナスの影響にもつながりかねません。
リスク回避のためにも、人材の定着や組織の活性化のためにも、求める人材像を明確化してから採用活動を始めましょう。
求める人材像を明確化するにはいくつかやり方がありますが、付箋やカードを使ったワークを通して求める人材の持ち味キーワードをピックアップし、それをより具体化していくという方法がやり易くお勧めです。例えば、求める人材の持ち味キーワードが「コミュニケーション能力」であるならば、自社で言うところの「コミュニケーション能力」とはどんなことを指すのか、行動例を具体化し、それを面接官評定票などに落とし込むと、面接時の面接官の補助ツールとしても活用することができます。
そしてこの作業を一歩進めて、求める人材像のペルソナを作っておくとよりイメージしやすくなります。前述した求める人材の持ち味キーワードから架空の人物像を作り上げてしまうというわけです。
求める人材像が明確化すると、求人媒体戦略も立てやすくなります。
その求める人材像にマッチした人材は採用市場のどこに存在するのか?大手求人サイトを見るのか、それともベンチャー系の求人サイトを見るのか?どんな採用イベントに参加するのか?その人材にはどんな言葉が突き刺さるのか?
これらを考えながら、求人媒体や求人原稿に使用する言葉を選んでいきます。
このように、求める人材像を踏まえて求人出しをするのとそうでないのとでは結果が大きく違ってきます。
何事も勢いだけではうまくいかないことが多いものです。採用も事前準備を行い取り組むからこそ、結果がついてくるわけです。
ここまで、採用の目的や求める人材像の明確化を中心にお伝えしてまいりました。
次回も採用の土台作りの続きをお伝えします。