ストレスチェックによる職場改善

働き方改革 / 生産性向上


ストレスチェック制度は2015年に始まりました。その目的は①ストレスがかかっていることに本人は気づいていないことが多いので自覚できるようにする、②職場を変えることで職場のストレスを減らす機会にする、の2点です。後者を集団分析による職場改善と呼びます。職場改善に取り組んだところ、かかった費用は一人当たり7,700円であったのに対し生産性が向上して得られた便益は15,000円と約2倍の経済効果があったという研究結果も報告されています。今回はストレスチェックによる職場改善についての基本的な考え方をお話しします。

ストレスチェックの集団分析で分かること

労働者のメンタルヘルス不調は多くの職場で問題になっています。
毎年国が行っている調査では50~60%の人が仕事から強いストレスを受けていると答えており、その原因として挙げられるものは①仕事の量、②仕事の質、③職場での人間関係、④仕事上で大きなミスをしたこと、⑤会社や自分の将来性などが多いことがわかっています。

さて、ストレスチェックは従業員各個人に対して実施されます。「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「最近の一ヶ月間イライラしている」「あなたが困った時、上司は頼りになる」などの57のチェック項目について「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」のどれかを選ぶ、という調査です。これにより、各人のストレス反応(疲れ切っている、イライラしているなど)とそのストレス原因(仕事の量や内容が本人にあわない、対人関係など)がわかります。

さらに、その結果を部署ごとや会社全体などでまとめて分析することで、集団としての傾向がわかります。これを集団分析と言います。

このストレスチェックの集団分析で最もよく使われるのは、量―コントロール判定図と、職場の支援判定図です。あわせて「仕事のストレス反応図」と呼ばれます。

量―コントロール判定図は横軸に職場全体の仕事の量的負担を、縦軸に仕事のコントロール度をとって、その集団が全国の平均と比べどこに位置するかを見るものです。これは、仕事の量が多いほど、そしてそこに個人の裁量がないほど働きにくい職場であるという考え方に沿って作られています。この考え方によると、職場改善のためには仕事量を減らしたり、残業時間を減らしたりする量的対策の他、もう少し個人の裁量が大きくなるように変えていくという方法も考えられます。特に管理監督者がマイクロマネジメントをするタイプの方になった場合、仕事のコントロール度が急速に悪くなることがあります。このように、ストレスチェックの集団分析結果が急に変わった部署には大抵重要な原因がありますので、「どこの部署がメンタルヘルスの危険が大きいか」だけでなく「昨年と比べてよくなったか悪くなったか」も見ていく必要があります。

一方職場の支援判定図は横軸に上司の支援を、縦軸に同僚の支援をとってグラフ化したものです。どれだけ忙しい職場でも、職場の雰囲気がよく、また上司がきちんと評価してくれて困ったときは相談に乗ってくれるような職場ではメンタル不調に陥ることは少なくなります。

なおこの「仕事のストレス反応図」は、部署別の他に、男女別、年齢別、職位別などで調べることも可能であり、特定の年代や職位によりストレス反応が強いかどうかも見ることもできます。

ストレスチェックを用いた職場改善では、この「仕事のストレス反応図」をメインにしつつ、残業時間平均、有休消化度、休職者・退職者数などをあわせて考えていくことになります。

職場改善活動のポイントはPDCAを回すこと

実際に職場改善に取り組むにはどのようにしたらいいのでしょうか。
まず、職場改善をする際に最も重要なことを最初に説明します。それは「PDCAを回す」ということです。職場改善活動のやり方は様々ありますが、どのやり方を採用したとしてもここをきちんと回すのが肝となります。
次回のストレスチェックの点数のどこをどのくらい改善するかという具体的な数字目標(それに加えて他の指標を立てても構いません。例えば残業時間を減らす等)を立て、何らかの職場改善活動を行う。そして必ず次の年に目標を達成したかどうか判定します。判定結果は目標を達成したか、しなかったかの二つしかありません。達成していようとしていまいとそれらを分析したうえで、次の年の職場改善活動をどうするかを決めます。なおこの際、実際の取り組みの過程や、実際取り組むと見えてきた問題点も別に評価するといいでしょう。

職場改善活動には3タイプある

ではいよいよ具体的な職場改善活動の実際に移ります。
改善活動は誰が主体となるかによって①経営者主導型②管理職主導型③従業員参加型の三種類に分けられます。

①では担当者(産業保健スタッフや産業医、人事担当者等)が経営層に対してストレスチェックの結果の集団分析結果を説明し、経営層が大まかな方針を決定。担当者が具体的な対策に落とし込んで各部署に伝達するものです。メリットとしては事業場全体としての取り組みが必要な場合効果的であること、経営層の指示の下動くため比較的スピーディーに施策が打てること等があります。一方デメリットとしては部署ごとの特性を把握しづらく、また現場の労働者のニーズと乖離する恐れがあります。

②では担当者が経営層に集団分析結果を報告するとともに、各管理監督者に通達、各管理監督者がそれぞれ自分の部署における計画の策定と実施を行い、担当者に報告。担当者はそれらを束ねて経営層に報告するとともに、良好事例を管理監督者間で共有します。メリットとしては管理監督者の自主性・部署の特性を踏まえた施策を打てることで、逆にデメリットとしては管理監督者の負担が大きいこと、やる気がなかったり独りよがりの管理監督者だと逆効果になることもあることです。

最も効果があると考えられているのは③の従業員参加型です。担当者が集団分析結果を経営層・管理監督者に報告し、管理監督者は職場環境について話し合う小討議の場を設けます。ここに担当者がファシリテーターとして参加することもあります。従業員が小集団討議で意見を交換し、それらを踏まえたうえで管理監督者が最終的に計画を決定し、実施を指示。従業員と管理監督者で計画を実施。担当者に報告します。既に5S活動やQCサークルなどが入ってる職場では導入しやすいという側面があります。メリットとしてはきめ細かい対策が実施でき、また討議によりコミュニケーションの改善も期待できます。デメリットとしては導入のハードルが結構高いこと、特に多忙すぎる職場で導入するのは難しく、負担感も大きいことです。

従業員参加型の職場改善の具体例

ここからは具体的にイメージを持っていただくために最も効果が高いとされる従業員参加型のやりかたを説明します。

①まず準備を念入りに行います。メリットや注意事項について担当者が経営者に説明。次に具体的なやり方を各部門の管理監督者に説明します。必要なら外部の産業保健専門家に手伝ってもらうこともあります。

②改善のための話し合いを職場の従業員の間で行います。約60分程度がいいでしょう。なるべく多くの人が参加できる日を選び、業務の一環として行います。管理監督者はその職場の全員を集め5-6人程度の小グループに分けます。明らかに仲の悪い二人は同じ小グループに入れないよう管理監督者は注意します。そして現在の職場のいい点からざっくばらんに話し合います。ここで重要なのは必ずいい点から話し合うことと、誰かを悪者にしないことです。その意味で各グループにはある程度ファシリテートに慣れた人がいるといいと思います。そして改善したほうがいい点も同様に話し合います。ここでのポイントは、なるべくすぐにできること、小さな改善を重視することです。最後にそれぞれのグループで話し合った結果を簡単に発表してもらい、一つか二つの改善目標を決めます。必ず、誰が、何を、どのように、いつまでやるかを決めて、紙に書いて共有します。多くても対策は3つまでにします。多すぎる計画や大きすぎる計画は実行が難しくあまり意味がありません。

③職場改善活動を実行し、結果の発表と記録を行います。この発表内容も文書にして会社全体として集めておきます。

④ストレスチェックを実施したあと、職場改善活動の結果よくなった項目について、社内で発表会を行い横展開することも効果的です。

例えばこんな感じになります。

小グループから以下のような意見が出たとします。

<良い点> 上司に相談しやすい。全員のスケジュールがLANで共有されており誰がどこにいるかすぐ把握できる。

<改善したい点> 共有備品の棚が散らかっているので整理整頓したい。全員が集まる朝会を週1回開催したい。
これらを合わせて検討し、最終的な目標を次のように決めます。

<改善計画>
共有部品の棚を整理係が2か月後までに整理する。その後は月に1回チェックして、誰がいつチェックしたかを棚の横に書いておくようにする。

<結果発表>
各小グループから一人代表を決めてその人たちでラベルを張って整理、交代で整理整頓の状態をチェックし、結果を月1回の全体会で発表。その結果4ヶ月以降はほぼ常に整理された状態となった。また課内アンケートを取ったところ棚が整理されて働きやすくなったという結果となった。必要とした工程数は、整理の段階で年間20時間人時、毎回のチェックと報告の段階で年間1時間人時。アンケートの作成、回答、回収、分析で10時間人時。かかったお金はラベルに使ったテープとマジックで340円であった。対費用効果を考えて有効であったと考えられる。

小さな改善を積み重ねていきましょう

勿論この結果が直接すぐにストレスチェックの結果に反映されるかどうかはわかりません。ただこういった小さな改善の積み重ねが働きやすい環境を作っていきます。最初のうちはどう進めていいかわかりにくいと思うので産業医等専門家の助けを多めに求めてもいいかもしれません。専門家を入れる分1回目はコストがかかりますが、2回目以降は慣れていきますのでだんだんスムースにいくようになります。

厚生労働省の「こころの耳」というサイトの「職場環境改善ツール」というところに様々な方法やツール、事例などが載っていますので、詳しくはこちらをご参照ください。
https://kokoro.mhlw.go.jp/manual/
どのような介入を行ってもすぐに会社全体のメンタルヘルスが改善することはまずありません。むしろ小さなステップを積み重ねていくことが働きやすい職場を作っていきます。

また、初めてストレスチェックを導入する職場では、いきなり職場改善まで行うことはかなり荷が重いと考えられます。1年目はストレスチェックのみ、2年目はそれに集団分析を加え、3年目から職場改善に取り組むという方法も考えられます。

ストレスチェックというと高ストレス者に対するミクロの対応ばかりが問題になりやすいですが、同時に職場改善というマクロの対策をとることで会社全体のメンタルヘルスをよりよくしていくことが可能です。しかもそれは会社の生産性の向上にもつながります。

最初は大変ですがぜひ取り組んでみませんか?

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