勤怠管理における乖離時間とは?発生する原因や対策方法

勤怠管理


はじめに
企業の勤怠管理において、「乖離時間」は大きな課題の一つです。タイムカードの打刻時間と実際の勤務時間が一致しないことで発生し、未払い残業や労務トラブルの原因となる可能性があります。適切に管理されない場合、労働基準法違反のリスクが高まるだけでなく、従業員のモチベーション低下や生産性の低下につながることもあります。本記事では、乖離時間の基本概念や発生原因、企業が直面するリスク、そして効果的な対策について詳しく解説します。

第1章 乖離時間の基本概念と企業への影響

乖離時間とは?タイムカードの記録と実際の勤務時間のズレ

勤怠管理において、「乖離時間」とは、タイムカードの打刻時間と実際の勤務時間の間に生じるズレを指します。事業主の求めがあり始業前に業務の準備を始めているにもかかわらず、タイムカードの記録が定時の開始時刻になっている場合や、退勤打刻後に業務を続けている場合が該当します。このズレは、業務の性質や企業の慣習によって発生しやすく、サービス業や製造業などの業種では顕著な問題となることが多いです。タイムカードを勤怠管理の基本ツールとして利用している場合、記録が実態を正確に反映していなければ、企業は労働基準法に違反していると判断される可能性があります。

労務管理における乖離時間の課題

乖離時間が発生すると、企業の労務管理にはさまざまな課題が生じます。まず、適正な労働時間の管理が困難になる点が挙げられます。企業は、従業員の勤務時間を正確に把握し、適正な給与額を支給する必要がありますが、乖離時間が生じると、実際の労働時間と給与計算にズレが生じ、未払い残業や長時間労働の実態が把握しにくくなります。また、従業員のワークライフバランスが損なわれることも大きな問題です。乖離時間が発生すると、企業の法的リスクが高まります。

法的リスクと従業員満足度への影響

乖離時間があると、企業は未払い残業のリスクを抱えることになります。労働基準法では、労働時間の適正な管理が義務付けられており、記録と実態が一致しない場合、企業は是正勧告を受ける可能性があります。また、長時間労働が常態化している企業では、従業員の健康被害やメンタルヘルスの悪化を招く恐れもあります。実際の労働時間が正しく記録されていない場合、従業員は適正な報酬を受け取れないだけでなく、自分の働きが正当に評価されていないと感じることがあります。長時間労働が続くことでワークライフバランスが崩れ、仕事に対する意欲の低下を招くこともあります。労働環境を重視する若手の従業員にとっては、適正な勤怠管理が行われているかどうかが、企業選びの重要な基準となることも多いです。

第2章 勤怠管理と実態のズレが生む乖離時間

業務の開始・終了時間と記録の食い違い

乖離時間が発生する大きな要因の一つは、業務の開始・終了時間と勤怠記録のズレです。企業の多くはタイムカードや勤怠管理システムを利用して従業員の勤務時間を記録していますが、必ずしもその記録が実際の勤務時間を正確に反映しているとは限りません。従業員が始業前に会社に来て、朝礼を行ったとします。一般的に、タイムカードの打刻時間は定時の開始時刻に設定されているため、勤務開始が早まっていても、それが記録に反映されないケースがあります。業務終了後に報告書作成や片付けを行う場合、退勤打刻後にも仕事を続けていることになり、実際の労働時間と記録上の労働時間の間にズレが生じてしまいます。こうしたズレが繰り返されることで、未払い残業が発生する原因となるのです。
シフト制を採用している職場では、シフトの開始時刻と実際の勤務開始時刻が異なることが多く見られます。小売業では開店準備が必要なため、従業員がシフト開始時間よりも早く出勤することが一般的ですが、タイムカードの打刻時間がシフトの開始時刻に固定されている場合、準備作業の時間が記録されないままになるのです。このように、業務の実態と勤怠記録のズレが、乖離時間を生み出す原因となっています。

企業文化や職場の慣習が引き起こすサービス残業の実態

乖離時間が発生するもう一つの大きな要因として、企業文化や職場の慣習が挙げられます。日本の職場では、従業員が上司や同僚の行動に影響を受けやすく、時間外労働が当然のものとされているケースが少なくありません。上司が退勤しない限り部下が帰りづらいと感じる職場では、形式的に退勤打刻を済ませた後も、社内に残って業務を続けることがよくあります。また、「定時退社を推奨するが、実際には業務量が多くて帰れない」という環境では、従業員が勤務時間を実際よりも短く記録し、サービス残業を行うケースが発生しやすくなります。

勤怠管理システムの不備が招く記録ミスと乖離時間

企業が使用する勤怠管理システムの不備も、乖離時間が発生する原因となります。多くの企業では、タイムカードやICカード、クラウド型勤怠管理システムなどを導入して労働時間を管理していますが、これらのシステムが適切に機能していない場合、記録ミスが発生することがあります。打刻機がオフィスの入口や休憩室の近くに設置されている場合、従業員が出勤打刻を済ませた後に休憩したり、退勤打刻を済ませた後に業務を続けたりするケースがあります。このような場合、記録上は適正な勤怠が管理されているように見えても、実際の労働時間とは異なる可能性が高いのです。乖離時間が発生する背景には、業務の開始・終了時間のズレ、企業文化や職場の慣習、勤怠管理システムの不備など、さまざまな要因が関係しています。これらの要因を適切に管理しない限り、乖離時間の問題は解決せず、企業の労務管理におけるリスクが増大していきます。

第3章 企業にとってのリスクと対応すべき課題

未払い残業がもたらす法的リスク

乖離時間が発生し続けると、企業は未払い残業の問題を抱えることになります。日本の労働基準法では、企業に対し従業員の労働時間を正確に記録し、それに応じた適正な賃金を支払うことが義務付けられています。しかし、勤怠記録と実際の勤務時間が一致しない場合、未払い賃金が発生し、企業が違法行為を行っていると判断される可能性があります。未払い賃金の問題が発覚すると、労働基準監督署から是正勧告を受けることになります。是正勧告とは、労働基準法違反が確認された場合に行政指導として発せられるもので、企業は違反内容を改善しなければなりません。もし企業がこの指導に従わなかった場合、企業名が公表される可能性もあり、社会的信用が大きく損なわれることになります。

従業員のモチベーション低下と離職リスク

乖離時間の問題は、企業の経営リスクだけでなく、従業員のモチベーションにも大きな影響を及ぼします。適正な労働時間が記録されない職場では、従業員が「働いた分の報酬を正しく受け取れていない」と感じやすく、不満が蓄積します。その結果、仕事に対するモチベーションが低下し、業務効率が悪化することが考えられます。

企業全体の生産性低下と業務効率への影響

乖離時間が発生すると、企業の生産性や業務効率にも悪影響を及ぼします。サービス残業が常態化している職場では、従業員が長時間労働を強いられ、業務の効率が低下します。長時間労働が続くと、従業員の疲労が蓄積し、集中力が低下することでミスが増えることになります。また、慢性的な疲労が原因で、従業員の健康状態が悪化し、欠勤や休職のリスクが高まる可能性もあります。労働時間の管理が曖昧な企業では、従業員の間で不公平感が生まれやすくなります。「自分は長時間働いているのに、他の人は楽をしている」といった感情が社内の人間関係を悪化させる原因にもなるでしょう。

第4章 効果的な対策で正確な労働時間管理を実現

勤怠管理システムの導入と運用ルールの徹底

乖離時間を削減し、正確な労働時間管理を実現するためには、まず勤怠管理システムの導入が不可欠です。従来の紙のタイムカードや手入力の勤怠記録では、記録ミスや意図的な改ざんが発生しやすく、実際の労働時間と記録の間にズレが生じることが多くなります。そのため、ICカードや生体認証、クラウド型勤怠管理システムを導入することで、より正確な労働時間の記録が可能になります。

実態調査と業務フローの見直しによる改善

乖離時間の削減には、企業が現場の実態を把握し、業務フローを見直すことが欠かせません。まず、従業員がどのような理由で乖離時間を発生させているのかを詳細に調査する必要があります。例えば、「始業時間前の準備作業が多い」「退勤後に業務報告を行う必要がある」「休憩時間を適切に取得できていない」といった問題がある場合、それらの原因を明確にし、改善策を検討することが重要です。

社内意識改革と働き方の最適化を進める

乖離時間の問題を根本的に解決するためには、企業の文化や従業員の意識改革も不可欠です。サービス残業を当然とする風潮や、「長く働くことが評価される」という価値観が根付いている企業では、乖離時間の削減が困難になります。そのため、企業はまず「適正な労働時間を記録し、正当な賃金を支払うことが重要である」という考えを従業員に浸透させる必要があります。例えば、定期的な研修を実施し、勤怠管理の重要性や労働基準法に関する知識を従業員に教育することで、意識改革を促すことができます。また、管理職に対しては、「部下の労働時間を適切に管理する責任がある」ことを明確にし、長時間労働を助長しないよう指導することが重要です。

第5章 未来の勤怠管理に求められるポイント

柔軟な働き方に対応する新しい管理手法

近年、企業の労働環境は急速に変化しており、従来の「出社して定時で働く」という働き方だけではなく、フレックスタイム制やリモートワークといった柔軟な勤務形態が普及しています。そのため、勤怠管理もこれらの新しい働き方に適応した形へと進化していく必要があります。フレックスタイム制を導入している企業では、従業員が自分の裁量で出勤時間や退勤時間を決めることができます。しかし、その結果、勤務時間の記録が曖昧になりやすく、乖離時間が発生する可能性があります。そのため、システムを活用して、従業員が働いた時間をリアルタイムで記録できる仕組みを導入することが重要です。

監査体制を強化しコンプライアンスを徹底

勤怠管理の精度を向上させるためには、企業の監査体制を強化し、労働基準法に基づいた適切な運用を徹底することが重要です。乖離時間が発生しやすい業務環境では、定期的な監査を行い、実態と記録の間にズレがないかをチェックする必要があります。例えば、企業内で「勤怠管理監査チーム」を設置し、定期的に各部署の勤怠データを精査することで、未払い残業や不適切な勤怠管理の兆候を早期に発見できます。また、第三者機関による監査を導入することで、公正な視点から企業の勤怠管理の実態を評価し、適切な運用が行われているかを確認することも有効な手段です。さらに、企業全体でコンプライアンス意識を高めるために、労働法に関する研修を定期的に実施することも重要です。管理職に対しては、適正な労働時間の管理方法や、部下の長時間労働を未然に防ぐための指導方法を教育する必要があります。例えば、「上司が定時退社することで部下も帰りやすくなる」「無駄な業務を削減することで労働時間を短縮する」といった実践的なアプローチを学ばせることが求められます。

従業員の声を活かした透明性の高い運用

勤怠管理の精度を向上させるためには、企業側の努力だけでなく、従業員の協力も不可欠です。そのため、従業員の意見を積極的に取り入れ、透明性の高い勤怠管理を実現することが求められます。
従業員のフィードバックを基に勤怠管理のルールを改善することで、より実態に即した運用が可能となります。加えて、勤怠データを透明化することも効果的な対策の一つです。長時間労働が発生した場合には、その原因をチーム全体で分析し、業務の進め方を見直すことで、乖離時間を削減することができます。このように、従業員の声を積極的に取り入れ、透明性の高い勤怠管理を実現することで、企業全体の労働環境を改善し、乖離時間の問題を解決することが可能となります。

まとめ
乖離時間は、多くの企業で発生している問題であり、未払い残業の原因となるだけでなく、労働基準法違反のリスクや従業員のモチベーション低下を引き起こす可能性があります。そのため、企業は適正な勤怠管理を行うために、システムの導入や業務フローの見直し、社内意識改革など、多方面からの対策を講じる必要があります。柔軟な働き方に対応するためには、勤怠管理の手法を進化させ、AIやクラウドシステムを活用することが重要です。また、企業の監査体制を強化し、従業員が安心して働ける環境を整えることも求められます。最終的に、企業が従業員と共に働きやすい職場環境を築くことが、乖離時間の問題を解決する鍵となります。適正な勤怠管理を実現することで、企業の成長と従業員の満足度向上を両立させることができるでしょう。

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監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実