人時生産性とは?注目される背景や算出する計算式・改善するポイントを解説
労働における生産性を表す指標である「人時生産性(にんじせいさんせい)」をご存じでしょうか。
従業員ひとりが1時間に生み出す粗利益を示した値です。
業務の生産性を客観的に見られるため、効率性を改善するうえでとても重要な指標となります。
この記事では、人時生産性の算出方法や、低下する要因、改善するポイントについて解説します。
自社の生産性を上げたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
人時生産性とは?
そもそも人時生産性とは「従業員ひとりが1時間に生み出す利益の指標」のことです。
それでは、なぜ人時生産性が注目されているのでしょうか。
ここでは、同じような意味を持つ労働生産性・人時売上高との違いを含めて、人時生産性の概要について解説します。
人時生産性とは、従業員ひとりが1時間に生み出す利益の指標
人時生産性とは、従業員一人の時間当たりの生産性です。
「粗利高÷総労働時間」という計算式で算出することができ、1人の従業員が1時間にどれだけの粗利を稼いだかを表す指標を意味します。
数値が高いほど従業員の生産性が高く、効率のよい企業(事業所・店舗)であるということがいえるでしょう。
人時生産性が注目される背景
人時生産性が注目される背景には、日本の労働生産性の低さがあります。
2015年のデータでは、日本の労働生産性はOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国の中で22位、主要先進7か国の中では最下位という結果になっています。
この労働生産性とは、その国のGDPを労働者の総労働時間で割った数字です。
しかし、日本は近年急にこの数値と順位が下がったわけではなく、30年近くの間は20位近辺を行き来しており、もともと低い基準であることがうかがえます。
また、総労働時間については、近年低下傾向に見えるグラフが多く出ていますが、これは労働者に占めるパートタイマーなどの割合が増えたことが主な要因です。
そのため、日本全体ではまだまだ長時間労働の実態は続いていると考えられます。
今後の労働力人口の減少を踏まえると、生産性の高い働き方へのシフトは必須であるため、人時生産性が注目されているのです。
労働生産性・人時売上高との違い
人時生産性と似た言葉として「労働生産性」「人時売上高」という言葉があります。
それぞれどのような違いがあるのでしょうか。
まず、労働生産性とは「生産量 ÷ 労働量」で算出される、投入した労働量に対して生み出すことができた商品・サービスの量の割合です。
人時生産性では基本的に労働時間をもとに算出されますが、労働生産性は労働者の数なども含まれるため、より広い意味で捉えられます。
一方で、人時売上高とは「売上高 ÷ 総労働時間」の式で算出される、従業員一人当たりが稼いだ売上を示す数値です。
人時生産性は粗利高をもとにしているため、生産にかかった費用も含めて計算されますが、人時売上高は単純な売上高のみを表します。
なお、労働生産性についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
関連記事:労働生産性の高い仕事に集中する3つのポイント
人時生産性の算出方法
人時生産性は具体的にどのような式で算出できるのでしょうか。
ここでは、人時生産性の計算式や、計算の具体例を紹介します。
人時生産性の計算式
人時生産性の計算式は以下のとおりです。
人時生産性(円)= 粗利益(円)÷ 総労働時間(時間)
投入した労働時間の総数で粗利益を割ることで、労働時間1時間あたりの粗利益がいくらかのかを算出します。
プロジェクト全体の粗利益・労働時間で計算するだけでなく、部署単位・チーム単位・個人単位などさまざまな分野で利用可能です。
人時生産性の具体例
人時生産性を具体的に計算してみましょう。
たとえば、従業員10人が一人40時間ずつ勤務した場合、総労働時間は400時間です。
この労働時間で得られた粗利益が100万円だとすれば、人時生産性は100万円÷400時間の計算で2,500円となります。
人時生産性を算出する際のポイントは、各従業員の労働時間や、売上・粗利益といった数値をしっかりと把握しておくことです。
計算の具体例を見て分かるように、人時生産性を正しく出すには正確な総労働時間・粗利益が必要となります。
日ごろからプロジェクトごとの工数管理・売上管理を行なうことで正しく人時生産性が算出でき、業務効率を上げるための糸口を見つけることが可能です。
業種 | 人時生産性の平均 |
飲食業 | 1,902円 |
小売業 | 2,444円 |
宿泊業 | 2,805円 |
製造業 | 2,837円 |
飲食店の場合
飲食店における人時生産性の平均は1,902円です。
飲食店において人時生産性を向上するには、人員配置の効率化・料理提供のスピード向上を行なうなどが考えられます。
今回取り上げた4業種のなかでは平均が最も低いため、とくに効率化が望まれるでしょう。
小売業の場合
小売業における人時生産性の平均は2,444円です。
小売業では商品の売上がそのまま利益に直結するため、利益率の高い商品の選定や売上の量を増やすことが重要となります。
また、店舗の運営効率化も重要な要素となるでしょう。
宿泊業の場合
宿泊業では人時生産性の平均が2,805円です。
同時により多くの客室が稼働できるほど粗利益が増え、人時生産性の向上につながります。
サービスの質を向上させたり、客室稼働率に合わせた人員配置を行なうことが重要となるでしょう。
製造業の場合
製造業の場合、人時生産性の平均は2,837円です。
製造業では生産ラインの効率化が人時生産性向上のカギとなります。
必要最低限の人員稼働で、生産スピードを上げることでそのまま粗利益の向上につながるでしょう。
人時生産性が低下する5つの要因
人時生産性が低下してしまう理由には、大きく以下の5つが考えられます。
ここでは、これらのロスの原因や、その対策について見ていきましょう。
・生産ロス
・管理ロス
・動作ロス
・手動ロス
・編成ロス
生産ロス
生産ロスとは、製造業などで物品を生産する際に発生するロスのことです。
生産ラインの効率が悪いと、生産に使う時間・人員・材料・電気を含むさまざまなものが無駄になってしまいます。
生産ロスを生まないためには、生産の段取りを効率化したり、不良品の数を減らしたりといった工夫が大切です。
また、機器の故障も生産停滞や修理コストによるロスを生む原因となります。
故障の予防や、故障した際のバックアップなどをしっかり用意しておくようにしましょう。
管理ロス
管理ロスとは、材料・機器・人員の管理におけるロスのことです。
たとえば、生産計画などが予定どおりに進まない原因として、想定外の故障なども考えられますが、そもそも計画に不備がある場合もあります。
このような管理部門が要因となって起こるロスを管理ロスというのです。
管理ロスを防ぐには、管理部門にきちんと知見のある人を配置し、正しい計画の設計・管理が必要となります。
動作ロス
動作ロスとは、従業員が働く際の動作に無駄があることで起こってしまうロスのことです。
その原因としては、従業員が作業に慣れていなかったり、作業導線が整っていなかったりすることが挙げられます。
そのため、動作ロスを防ぐには従業員の教育を行い、作業道具の配置を調整することでロスを減らす工夫を行ないましょう。
手動ロス
手動ロスとは、作業を自動化しないことで発生してしまうロスのことです。
近年では、精密機械やITシステムなどを利用した自動化がさまざまな場面で利用されています。
ただし、新規にこれら自動化の仕組みを導入するには費用面・教育面などでコストがかかる点にも注意が必要です。
適切に自動化を行ない、手動作業をできるだけ減らす取り組みを行なうのがポイントとなります。
編成ロス
編成ロスとは、ライン設計がうまくいかずに生まれるロスのことです。
たとえば、手待ちが発生して従業員の労働時間が無駄になったり、複数の製品を製造する際にベルトコンベアのラインが崩れてしまったりすることで起こります。
編成ロスを防ぐには、何よりも編成を効率化することです。
複数の工程をバランスよく、ロスのない順番に編成することを心がけましょう。
人時生産性を改善するポイント4選
それでは、人時生産性を向上するにはどのような点に気をつければよいのでしょうか。
ここでは、人事生産性を改善する以下4つのポイントについて解説します。
業務効率化を行なう
業務効率化を行なうことで、同じ粗利益を出すためにかかる総労働時間を削減し、人時生産性の改善が可能です。
ただし、一言に業務効率化といっても、実行にはさまざまな工程を踏む必要があります。
業務効率化を行なうには、業務内容の洗い出しや、生産性が低いと考えられる箇所の把握が重要です。
このように、業務全体を効率化しようとするのではなく、ボトルネックとなっている一部の作業に焦点を当てて改善することで素早く効率化を進めることができます。
ボトルネックとなっている箇所を探すには、工数管理を行なって工数がかかる業務を見つけるのも有効です。
業務効率化につながる工数管理について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
参考記事:業務効率化だけでなく働きやすい職場にも繋がる「工数管理」を知ろう
人員の配置を見直す
人員の配置を見直すことも、人時生産性を改善するためのポイントです。
得意とする業務を担当することで作業効率が上がるだけでなく、従業員のモチベーションアップにもつながります。
また、シフト制で業務を行なう飲食業・宿泊業などであれば、ピーク時・アイドル時の的確な人員配置が効率を上げることになるでしょう。
このように、人員の配置を見直すことも人時生産性アップにつながります。
RPA(自動化ツール)などのITツールを導入する
近年では、さまざまなITツールを導入することによって人時生産性を改善させる方法も取られています。
とくに、RPA(自動化ツール)による定型作業の自動化は、さまざまな業務を効率化できるだけでなく、ヒューマンエラーを防ぐこともできるため人気です。
専門的な知識がなくても簡易的な自動化設定ができるツールも数多くリリースされています。
このようなITツールの導入は費用がかかる側面もありますが、それ以上の効果が見込める場合は導入を検討するとよいでしょう。
従業員のモチベーションを向上させる
従業員のモチベーションを上げることも、人時生産性を高めるポイントです。
たとえば、生産性向上に向けた施策をきちんと従業員に説明し、その目的を知ってもらうことが挙げられます。
前述の業務効率化・人員配置・ITツール導入などは、これまでの作業運用に変更を加える場合が多く、従業員にとっては負担となるでしょう。
これらの施策について経営陣だけが目的や効果を把握するのではなく、実際に作業をする従業員にも丁寧な説明をすることで効果が実感でき、モチベーションアップにつながります。
このような経営陣と従業員間の意識共有を行なうなどによってモチベーションを維持することで、人時生産性の向上が見込めるのです。
まとめ
この記事では、人時生産性について以下のとおり解説しました。
・人時生産性とは、従業員ひとりが1時間に生み出す利益の指標
・人時生産性は「粗利益(円)÷ 総労働時間(時間)」の式で算出できる
・人時生産性を上げるには、低下する要因を把握して、それぞれの改善が必要
今後も日本の労働生産性の低さは課題となり、生産性の高い働き方が求められるでしょう。
人時生産性を把握するためにも、労働時間を正しく管理する必要があります。
人時生産性を向上する取り組みのスタートとして、勤怠管理の見直しも考えてみてはいかがでしょうか。