年5日の年次有給休暇取得の義務化に向けて
働き方改革
働き方改革関連法が成立した2019年4月1日以降、会社は時季を指定し労働者に年5日の有給休暇を取得させる義務が発生しました。
罰則も設けられており、違反した場合には罰金が課せられます。
また、近年はワークライフバランスに注目が集まり、有休が取得できないなど働きにくい会社であれば採用が難しく、社員の離職リスクも少なくありません。
この記事では、有給休暇の基本ルールと年5日取得のルール、有休取得を促すポイントについて詳しく解説します。
年5日の義務化を含めた有休に関するルールを知りたい方、有休の取得率を上げたい方、ぜひ参考にしてください。
目次
有給休暇の年5日取得が義務化された背景
有給休暇の年5日取得が義務化された背景には、ワークライフバランスの実現があります。
日本では人手不足や長時間労働を評価する空気の蔓延で、有休の取得率が高くありませんでした。
ただ、ブラック企業や過労死など労働に関する問題が多発し、働き方改革関連法の一環で有休の年5日取得が義務化されました。
以下は、厚生労働省が発表した有給取得率に関する推移データです。
上記によれば、2001年から2017年の長期間にわたり、有休取得率は50%を下回っています。
近年は義務化などの影響により取得率が向上していますが、日本政府が目標として掲げる有休取得率70%に届いていません。
また、日本の有休取得率は国際的にみても高くありません。
以下は世界の大手総合旅行ブランド「エクスペディア」が調査・発表した「世界16地域 有給休暇・国際比較調査2022」の結果です。
出典:日本、有給休暇の取得率 世界ワースト 2 位|エクスペディア
上記によれば、日本の有休取得率はワースト2位となっています。
年次有給休暇の基本的なルール
年次有給休暇は、労働者における心身疲労の回復・労働力の維持と、ゆとりある生活の実現を目的に、労働基準法第39条で定められているものです。
ここからは、有休における以下の基本的なルールについて詳しく解説します。
- 対象者と付与日数
- 出勤率の算定方法
- 時季変更権
対象者と付与日数
有休は、以下2つの条件を満たした人に与えられます。
- 雇い入れ日から起算して6ヵ月間継続勤務した
- 全労働日の8割以上出勤した
雇い入れ日とは一般的に入社日のことを指し、全労働日とは労働契約や就業規則などで労働日と定められた日のことです。
対象は正社員だけではないため、注意が必要です。
契約社員やパートタイム労働者などの区分に関係なく、一定の要件を満たした全労働者が対象になります。
また、以下の通り勤務年数に応じて付与する有休の日数は異なります。
<週の所定労働時間が30時間以上で、所定労働日数が週5日以上、もしくは1年間の所定労働日数が217日以上労働者の付与日数>
出典:労働基準行政全般に関するQ&A|厚生労働省
<週所定労働日数が4日以下で、週所定労働時間が30時間未満、もしくは1年間の所定労働日数が48日から216日までの労働者の付与日数>
出典:労働基準行政全般に関するQ&A|厚生労働省
出勤率の算定方法
前述の通り、有休が発生する要件の一つは全労働日における8割以上の出勤です。
出勤率は原則として以下で算出されます。
◆出勤率=出勤日数÷全労働日(暦日数-休日日数)
ただし、休日労働した日や会社都合の休業日などは、原則として「全労働日」から除外する必要があります。
また、業務上の怪我・病気で休んでいる期間や、法律上の育児・介護休業を取得した期間などは、出勤したものとして取り扱わなければなりません。
なお、慶弔休暇などの会社が任意で決めている特別休暇の取得日について、出勤したとするか否かは、会社の定めによります。
時季変更権
基本的に、使用者(会社)は労働者が希望する時季に、有休を与える必要があります。
また、有休を取得した労働者に対し、賃金の減額やその他不利益な取扱いも禁止です。
ただし、請求された時季における有休の付与が事業の正常な運営を妨げるケースでは、他の時季に与えられる「時季変更権」が認められています。
時季変更権は、単に日常的に業務が忙しいことや慢性的な人手では行使できません。
以下などの事情を総合的に判断するとともに「事業の正常な運営を妨げる場合」というのは、かなり限定的であると考えておくべきでしょう。
- 事業内容
- 企業規模
- 労働者の担当業務の内容や業務の繁閑
- 代替要員確保の困難さ
働き方改革で定められた年5日の年次有給休暇取得に関するルール
働き方改革関連法が成立により2019年4月1日以降、会社は時季を指定し労働者に年5日の有給休暇を取得させる義務が発生しました。
ここからは、以下の働き方改革で定められた年5日の有休取得に関するルールについて詳しく解説します。
- 対象者の条件
- 5日取得の起算日と考え方
- 時季指定
- 年次有給休暇管理簿の作成
- 就業規則への記載
- 罰則
対象者の条件
年間10日以上の有休が付与される労働者が対象です。
全ての有休付与者ではありませんが、管理監督者や有期雇用の労働者などであっても、年間10日以上有休が付与されていれば対象になります。
年5日取得の起算日と考え方
年5日間の有休取得における起算日は、10日以上の有休を付与した日です。
前述の通り、労働基準法上で有休を付与するのは、入社日から起算して6ヵ月間継続勤務するとともに、全労働日の8割以上出勤した労働者です。
具体的には、4月1日に入社した労働者の有休付与日は10月1日で、10月1日から翌9月30日の間で、5日間の有休取得が必要です。
ただ、中には入社と同時に有休を付与する会社もあるでしょう。
仮に、4月1日に入社した労働者に入社した時点で10日以上の有休を付与した場合、4月1日から翌3月31日の間で5日間の有休を取得させなければなりません。
また、年の途中で休職に入る労働者に対しては、制度上、起算日から休職開始前日までに5日取得させる必要があります。
例えば、起算日が4月1日で7月1日から休職に入る労働者の場合、6月30日までに5日の有休を取得させなければなりません。
時季指定
義務化された年5日の有休は、会社が時季を指定し取得させる必要があります。
指定する場合は、一方的に決めるのではなく労働者の希望や意見を聞き、できる限り労働者の意志を尊重しなければなりません。
会社が指定する前に年5日以上の有休を請求・取得した労働者に対する時季指定は不要です。
年次有給休暇管理簿の作成
会社は労働者ごとに、いつ・何日の有休を取得したかの管理が必要です。
労働者ごとに、有休の基準日や取得した時季、日数を記録した有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
なお、管理簿は労働者名簿や賃金台帳と併せた作成も可能です。
必要な際に出力できる仕組みであれば、システムでの管理も問題ありません。
就業規則への記載
会社が時季指定を行う場合は、就業規則に以下などの詳細を明記しなければなりません。
- 対象となる従業員の条件や範囲
- 時季を指定する方法
罰則
働き方改革関連法にて義務化された内容に違反した場合の罰則も設けられています。
具体的な違反内容と罰則は以下の通りです。
違反内容 | 罰則 |
---|---|
対象者に年5日の有休を取得させなかった | 30万円以下の罰金 |
時季指定を行うにも関わらず、就業規則に記載していない | 30万円以下の罰金 |
労働者の希望する時季に有休を与えない | 30万円以下の罰金 |
なお、対象者に年5日の有休を取得させなかった場合と、労働者の希望する時季に有休を与えない場合は、一人の労働者につき30万円以下の罰金が科せられます。
例えば、対象者5人に年5日の有休を取得させなければ、最大150万円の罰金が科せられます。
有給休暇の取得を促すポイント
年5日間の有休取得義務はすでに開始されており、守らなければ罰則が適用されます。
ただ、中には難しい会社もあるでしょう。
ここからは、有給休暇の取得を促す以下のポイントについて詳しく解説します。
- 各労働者における有休の取得状況を把握する
- 有休の計画的付与制度を導入する
- 有休を取りやすい雰囲気をつくる
各労働者における有給休暇の取得状況を把握する
まず、労働者の有休取得状況を正確に把握する必要があります。
罰則は設けられていませんが、年次有給休暇管理簿の作成も法律で義務化されました。
年次有給休暇管理簿の作成は、Excelやスプレッドシートを活用すれば無料で行える一方、多くの手間がかかるため、勤怠管理システムの利用がおすすめです。
勤怠管理システムの有休管理機能を活用すれば、簡単かつタイムリーに取得状況を把握できます。
また、本人と管理職も確認できるため、取得の意識付けにも寄与するでしょう。
有給休暇の計画的付与制度を導入する
使用者と労働者の合意により有休の付与時期をあらかじめ定め、計画的に付与する「計画年休」制度の導入も、有休取得の促進に有効です。
計画的付与には以下の3種類があります。
- 事業場全体の休業による一斉付与
- 班別の交代制付与
- 年休付与計画表による個人別付与
計画年休を行うためには、事業場ごとに労使協定の締結が必要です。
なお、締結した労使協定は労働基準監督署へ届け出る必要がありません。
また、計画年休を利用しても、付与する有休のうち最低5日は労働者が自由に使えるようにしておく必要があり、対象にできるのは5日を超える部分のみです。
有給休暇を取りやすい雰囲気をつくる
有給休暇を取りやすい雰囲気づくりも欠かせません。
以下は、格安スマホや格安SIMを提供するビッグローブ株式会社が、2017年に発表したデータです。
出典:有給休暇を取得しづらい理由は「職場の空気」が1位に BIGLOBEが「有給休暇に関する意識調査」を実施|ビッグローブ株式会社
上記によれば、有休を取得しない(しづらい)理由の上位3つは以下で、雰囲気づくりの重要性がわかるでしょう。
- 職場に休める空気がない
- 自分が休むと同僚が多く働くことになる
- 上司・同僚が有休を取らない
また、管理職が定期的に面談を行った上で以下などを実施し、業務における属人化の是正もポイントです。
- 部下の仕事状況を把握する
- 業務分担の見直しを図る
- マニュアルを整備する
属人化を改善すれば、業務が人につく状況を改善し休暇を取得しても業務が滞る心配がなくなるでしょう。
有休カレンダーを作成し、数ヵ月先までの有休取得予定を共有・見える化すれば、事前の業務調整が可能になり、取得へのためらいも減らせます。
さらに、年休を取得しやすい雰囲気づくりで大切なのが、経営者・管理職による啓発です。
有休の取得促進に成功している会社では、なぜ有休の取得が必要なのかを経営者自らがミーティングやさまざまなツールを活用し、継続的な発信と啓発活動を行っています。
労働者はそれぞれの考え方があり、必ずしも有休取得に前向きとは限りません。
経営者や管理職が意義を語れば、労働者が納得し自ら取得したいと思うことで、継続的な有休取得につながります。
まとめ
この記事では、有給休暇の基本ルールと年5日取得のルール、有休取得を促すポイントについて解説しました。
働き方改革関連法が成立した2019年4月1日以降、会社は一定の条件を満たした労働者に対し年5日の有休を取得させる義務が発生し、違反した場合の罰則も設けられています。
有休の取得率向上には以下が有効です。
- 各労働者における有休の取得状況を把握する
- 有休の計画的付与制度を導入する
- 有休を取りやすい雰囲気をつくる
まずは、勤怠管理システムを導入し、勤務時間の把握から休暇の取得状況まで一元管理すると良いでしょう。
CC-BizMateであれば、工数管理や業務内容の分析も可能で、有休を取りやすい雰囲気・体制づくりにも貢献します。
気になった記事をシェアしよう!
監修者名:社会保険労務士・行政書士オフィスウィング 板羽愛由実
参考: